「私は、所謂堕天した、女神です」
 そう言った時点で、アストロの目が点になった。
「時を司っていました。でも、罪を犯して地上に堕したんです。クィーザ・ゲッティンとして。でも今でも、その女神の力は少し残っているんです。ですがそれを使うことは禁じられていました」
 私は、アストロが口を挟まない内に一気にまくし立てる。信じろと言う方がバカみたいな話だけど、事実だ。
「私はその力を、掟に反して使ったんです。その罰として、この、永久に繰り返す時間の中に、閉じ込められたんです」
「……お前も、記憶が連続しているのか」
「はい」
「じゃあ何で、俺も、記憶が繋がっているんだ」
 そう。それが私への罰だ。そして、それは同時に、アストロへの罰でも在る。
「他の人の記憶が無いのは、私への罰だから。アストロさんの記憶があるのは――――私が堕天した理由が、アストロさんだから、です」
 アストロが怪訝そうな顔をした。
「つまりその、私が犯した罪に、アストロさんが関わっていて……巻き込んで、ごめんなさい」
 きっと許してはくれないだろうけど、深々と頭を下げる。
「……それで、どうすればいい」
「へっ?」
「どうすれば、ここから抜け出せる」
「それは……」
 真剣なアストロの視線から、つい顔を逸らしてしまう。
「……何だ、嫌な事か」
「アストロさんこそ……何で、そんな平気なんですか? 目の前で、こんなことを告白されて」
「……そんなことを言われても、この現状が、現実だからな……女神だ何だと言われても、驚くほどじゃない……と、思う」
 俯いたアストロの淀んだ瞳が心に刺さる。ああそうだ、長い時間存在している私とは違う、アストロは人間なんだ。
 何回も同じ時間を繰り返せば、心も摩耗する。戦場と言う異常空間すら日常になっていたんだから、今更、何にも驚けはしないんだろう。吐き出された言葉が嫌に生々しくて、私は俯いてしまう。
「……出る方法は在ります。この世界から……」
 私がそう言うと、アストロの表情に光が差した。
 ああ、言いたくないな。でもこの方法が一番確実だから。
「私を殺してください」