ああ、また死んでしまった。
 私は両手を組んで、胸の前で固く握りしめる。
 許されないと分かっているから。私はどれだけ罰されても構わないから。だから、運命の女神様、この声が聞こえているなら、少しだけ、我儘を聞いて欲しい。
 私はこの牢獄に取り残されても良い。彼はもう、解放してあげて。
「私が、この世界の時間を巻き戻したんです。だから何が起きるか全部知っているんです。これが百三十八回目の今日だと言う事も知っているんです。全部覚えているんです」
 あなたに生きて欲しかったから。そんな我儘をそっと飲み込む。
 百三十八回目の今日。アストロは、憔悴した顔で私を呆然と見つめていた。
「でも本当は、それは許されないことで、だから、この戦場は世界から切り離されてしまって。私には、それを戻す力は無くて、だから――――」
 何から説明したらいいだろう? 私の正体か、それとも――――
 次の言葉を紡ぐ前に、殴られた。私は軽々と吹っ飛んで壁に激突する。背骨が悲鳴を上げた。痛いとか、そういうことを思う前に二発目が来る。
 アストロは、壁の前に両足を伸ばして崩れ落ちた私の前に立ち、胸倉を掴んで無理矢理に立たせる。全身が熱い。骨の二、三本は折れただろうな。
「説明しろ」
 私を壁に押し付けながら、殺気だった声でアストロはそう言った。
「何を知っている」
「……全部、です……」
「この世界が今日を繰り返しているということだろう? じゃあ説明をしろ。原因は何だ。どうすれば抜け出せる」
「えっと……原因は、私、なんです……」
「……?」
「何から言ったらいいか……」
 私が困ったような顔をすると、アストロは手を離した。そして、咳き込んだ私の前に片膝を付く。
「お前は……何者なんだ?」
「……言ったら、信じますか?」
 笑えただろうか。アストロは私を見下ろし、僅かに顔を顰めた。
「……もう、何を信じたらいいか分からない」
 苦々しく、吐き出すようにアストロは言う。
「……それじゃあ、説明します。時間がありませんから」
 私は腕時計を見た。何処かにぶつけたのか、カバーガラスが割れている。時間は九時四十二分だ。
 私は大きく息を吸って、思考を整理した。