「アストロさん」
 ひょこっ、と、廊下の角から顔を出して、クィーザが俺に声を掛ける。廊下を歩いていた俺は足を止めた。
「ああ、クィーザか。新型銃の話だろう」
「ええ、新型の銃が朝方出来まして。試し撃ちを……どうして、知っているんですか?」
「何でも無い。試し撃ちをして暴発しなかったら即登用する」
「了解しました」
 いつも通りの会話だ。
 死ぬのは、確かに嫌だ。だがだからといって、死ぬ度にこの時点に立ち返ってやり直せと言うのも、地獄でしかない。
「……いっそ」
 去って行くクィーザの背を見て、ぽつりと俺は零していた。
「いっそ殺してくれ」
 クィーザが止まった。しまった、聞こえただろうか? 振り返ったクィーザは、怪訝な表情になっていた。
「気弱ですね。どうしたんですか」
「……いや、悪いな、何でも無い」
「そうですか……」
 言っても信じないだろう。四十回目も今日を、俺が体験しているなんて。終わりの無い時の牢獄に押し込められているなんて。
 午前九時四十二分。突撃命令が下される。
「……頼むから、もう止めてくれ」
 せめて記憶さえなければ。そう何度願っただろうか。
 敵が何処から来るかは分かっている。それなのに勝てない。記憶ばかりが積み重なって、頭が痛い。
 午前九時五十分。突撃開始。
 午前十時二十三分。戦死。
 午前八時丁度。起床。
 午前九時四十二分。突撃命令が下される。
 午前九時五十分。突撃開始。
 午前十時二十三分。戦死。
 午前八時丁度。起床。
 午前九時四十二分。突撃命令が下される。
 午前九時五十分。突撃開始。
 午前十時二十三分。戦死。
 午前八時丁度。起床。
 午前九時四十二分。突撃命令が下される。
 午前九時五十分。突撃開始。
 午前十時二十三分。戦死。
 分かってるんだよ。俺は今日までの命なんだろう? それが運命とやらならさっさと殺せよ。何で生かす? 何で繰り返す? 何で、一人だって余計に救えない?
 何処で何を間違ったんだ、俺は。