「むぐぐぐ…」
橋本さんも煌大くんもスイスイ読み進めているのに対して私はまだ10分の1にも到達していない。内容を理解しようとしながらだとなかなか思うように進まなかった。
「ありがとう、次お願い」
「あ、はい。」
パラッ
「疲れただろ?少し休みなよ」
「大丈夫ですよ!」
「嘘つかないで?ね?」
私の頭をなでる橋本さんの手はすり抜けているはずなのに温かい。
ほんと、なんて天使なんだろう。
私の癒しだ。
「杏奈ちゃん、読み終わったんだけど…最後のページにこれが」
「え?それって…」
手紙だ。
白い封筒がずいぶんと黄ばんでいてとても古いものだということがわかる。
煌大くんにわたされた手紙の裏には名前が書かれていた。
《橋本 良樹くんへ》
「橋本さん、もしかしたら、これ…」
「その字は……」
橋本さんの目から一筋の涙が流れ落ちた。
「…香織……香織の字だ。」
橋本さんは手紙を見ながら嬉しそうで懐かしそうに泣いている。
「開けますか?」
「あぁ。」
手紙を開けると2枚の便箋が出てきた。その白い便箋も黄ばんでいて、でもとても愛を感じるものだった。
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《良樹くんへ
今日は卒業式ですね。
いつもここであなたと本を読むことが私の高校生活で一番の楽しみでした。
なんて、恥ずかしいね。
でも本当のことですよ?ありがとう。
卒業したらあなたともう離れ離れになってしまうので伝えたいことがあります。
高校2年になって初めて同じクラスになったね。
毎日良樹くんを見ていました。
運動が不得意でへたっぴな走り方をしている体育の時間。カクカクと船をこいでいる授業中。図書室で分厚い本を読んでいる良樹くんが大好き。
良樹くんは覚えているかな?
背が学年で一番小さい私が黒板の上の方を消すことができなかったの。
私が日直になった日はいつも手伝ってくれたよね。
真面目で優しくて本が大好きな良樹くんが私は大好きです。
今日まで本当にありがとう。
また会える日まで。
田辺 香織より》
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香織さんからの手紙を読み終わった後、橋本さんは笑っていた。
そして泣いていた。
きっと両想いだったのだろう。
でも交通事故で亡くなった橋本さんは想いを伝えることなく二度と交われない存在になってしまった。
私は、今まで遥太から逃げていた。
勇気を出したこともあったけど今だって遥太を避けている。
これからなにが起こるかなんてわからない。
だから今出来ることを精一杯やる必要があるのに、当たり前のことなのに……

