「へぇー。こんな難しい本に好きなんですかぁ。私には難しすぎて読めません」

分厚い本を橋本さんが指さしたので取って広げてみたが、ちっとも内容がわからないので何についての本なのかもさっぱりだ。

「これは死んでから何の本なのかずっと気になっていたんだ!触れないから読めなくて。」

「じゃあ、読みますか?私がページめくるので!」

「そんな雑用みたいなことさせられないよ。君が読んで感想を聞かせてくれればいいよ。」

いやいや、さっき言ったこと覚えてますか、あなた。こんな難しい本読めないんだってば!

「いえいえ、座ってくださいな。あ」

言った後、後悔した。
何も触れない橋本さんは座れるわけがないからだ。

「あ、あのすみませ……」

「ありがとう!じゃあお言葉に甘えて、よっこらせ」

「えぇ!?す、座れるの!?」

「もちろんだよ。ここは3階でしょ?なんで3階なのに立ってられるの?床には足がつけられないはずなのに。それは浮いてるから!いすの上にも浮けば座れるわけ♪」

「空気いす……ぷっ!」

「結構頭いいだろ?」

「なるほどってかんじです!橋本さん頭いい!」

はたから見れば幽霊とこんな楽しそうに話しているなんてばかげているが、この人は悪い人ではない。だからこの時間は大切なものだ。

「じゃあ、めくってくれるかな?」

「まかせてください!」











どのくらい経ったのだろうか、橋本さんは真剣に本を読んでそのページが読み終わると毎回「ありがとう、次をお願い」と言ってお礼を伝えてくる。とても優しい。
橋本さんの真剣な横顔を見ていると全然つまらなくならない。むしろ難しい言葉に直面したときの少し悩む顔や興味のある分野に話が入ったときの楽しそうな顔など真剣な顔の中にも微細な表情の動きが見られて楽しい。
本当に本が好きなんだなと思う。




グゥ〜




「!!」

私のお腹からなんとも恥ずかしい音が鳴った。

「あぁ、もうお昼か。」

パッと時計に目を向けた橋本さんは言う。

「ってごめん!探し物を手伝ってもらっているのに本なんか読み始めちゃって」

「いやいやいいんですよ!お昼食べたらまた来ますから!」

「本当にすまないね。ありがとう川井さん」

「いえいえ!それじゃあまた来ますので!」

「あぁ。でも授業はサボっちゃだめだから放課後に、お願い」

「わかりました…」

真面目な橋本さんにはかなわない。
授業がんばって急いで戻ってこよう!

橋本さんに帰り道を教えてもらい、新校舎に到着した。結構近かった。

「行ってきます!」

「がんばってこいよ。あ、僕のことは内緒ね?」

「わかってます!」







そして私は橋本さんとわかれた。