私は天津奏(あまつかなで)。高校1年生。私の名前はお母さんがつけた。お母さんは昔から音楽が好きだったそうで、いつか子供が生まれたら音楽系の名前をつけようと思っていたらしい。

私は生まれてから今まで、「恋」というものをした経験がなかった。周りの子は恋だの愛だの言って騒いでいた。私にはハッキリいってなにが楽しいのかわからなかった。

ある日の放課後、いつものように空き室でピアノを弾いていた。部活に入ってるわけでもなかったので、(でもピアノは弾きたかった)先生に頼んで空き室を貸してもらえることになったのである。私はピアノが好きだ。小さい頃からピアニストになるのが夢で、沢山練習してきた。今でも私はピアニストになるのが夢だ。頭も顔も全て普通くらいで、なんの取り柄もなかった私にらピアノを勧めてくれたのは母だった。そんなことを考えながらピアノを弾いていたら、ガラガラとドアが開いた。そこにはひとりの男子がいた。
「素敵な音だね」
その、ある人はいった。
「あ、ありがとう…」
しばらく男子と話していなかったので言葉がカタコトになってしまった。そして、経験したことのないような、もやもやっとしたようなふわふわっとしたような…なにか不思議な感じがした。これって…恋?いや、ピアノの音を褒められたから嬉しかったという感情だろう。でも嬉しい時の感じとは少し違った。