周りの街行く人々はその異質な空気に気付かずにいる。まあここは軍事国家、軍服を纏った者がいても違和感を感じるはずはないが。

しかしアオとギル、そしてカルラを中心とする軍人の間に流れる雰囲気は、最悪であった。



「女」


「…名前くらい名乗ったら如何ですかねえ」

「ーーお前はこのオリガスで初の女戦闘員だと聞いた、一体何処の者だ?」

「(無視かよ…)」


にしてもこの男の目力、強すぎてはないか。
無意識に脚が少し震えているのを自分でも感じる、ジワリと柄に添えていた手に汗が滲むのを感じていた。

これは、恐怖ーーーだ。


「っ唯の流れ者ですよ、貴方こそ、」

「俺はカルラ・オリガス。
其処のフードを被り直した馬鹿者の兄だ」

「っ!」


……なるほど。
道理で金色の双眼、見たことあると思った。
もうここまでバレていれば隠す必要もあるまい、ギルは諦めて嫌々フードを外した。
晒された綺麗な黒髪に、アオは確かに二人の遺伝子が繋がっていることを再確認した。


「ーーーはぁ。お久しぶりです、兄上」

「……お前が邸を抜け出してから、従者が血なまこで探していたぞ。俺はお前が如何しようが全く興味ないがな」

「相変わらず、マイペースでいらっしゃる」

「ギル……」


挑発的に声を発しながらもその額には汗が滲んでいた、ギルがこうなっているということは、相当ヤバいのだろう、この男。

そしてここで、眼鏡の男、フランクも黙ってはいなかった。


「ギル様!一体今まで何処にいらっしゃったのですか!!アルベルト様がどれだけーーー」

「黙れ、フランク。隣で叫ぶな」

「何をおっしゃいますか!数日間も行方不明だったのですぞ!!」

「腐ってもオリガスの血が流れているんだ、簡単にくたばるわけないだろうが。放っておけ」


ただのガキの反抗期だ。
そう言い捨てたカルラにギルも睨まないわけはなく。更に雰囲気は悪化した。

(兄弟喧嘩なら他所でやってくれ、頼むから)


そう思って細く息を吐いたアオは、もう一度カルラを見据える。

ーーーこんな大物が、一体何の用があってこんなところに。


「…俺がここに来たのは、其処にいる血を分けた男でも、魔女の鏡でもない」

「!魔女の鏡があると、知ってーーー」




「女、お前と殺(や)り合いたいだけだ」





血が煮え滾るほど強く、身体が震え上がった。
この場にいる誰しもが戦慄を覚えたであろう。


(ーーーこの戦闘狂は、ヤバい)