「こっちの方が空いてるよ」

「ありがと……」

……まさに至れり尽くせりである。

累くんは優しい。

振られたと思い込んで泣いていた私を慰めてくれた時と、その態度はなんら変わらない。

けれど、私は知っている。

……彼の内側に悪魔のような本性が潜んでいるということを。

「混んできたね」

「あ」

後から乗り込んでくる人に押されるようにして、偶然にも累くんの腕の中に飛び込んでしまう。

「大丈夫?」

「うん……」

しがみついていると学生時代とはまた違う身体の厚みに、不覚にもドキリと胸が高鳴ってしまう。

これが大人の魅力というやつなのか。