一夜明け、憂鬱な気持ちになりながらも出勤しようとエレベーターから降り立つと、累くんがマンションの入口に立っているのが直ぐに分かった。

「おはよう、石崎さん」

「おはよう、累くん……」

住んでいるマンションも一緒。勤めている会社も一緒。もはや私に安住の地はない。

「さ、行こうか」

ごく自然な動作で隣を陣取る累くんを咎めることはもうしない。

姫に仕える騎士のごとく、エスコートは彼の役目である。

駅まで歩いている間も車道側は頑なに累くんが譲らない。

ホームに滑り込んでくる満員電車の人混みに尻込みすれば、すぐさま他人のいないところに誘導してくれる。