「本日からお世話になる明石累です。よろしくお願いします」

見目麗しい彼の唇が蠱惑的な半円を描くと、まるで別世界に放り込まれたように一切の音が消えた。

今日もいつもと同じ、少しだけ退屈なルーティンワークが始まるはずだった。

……そう、彼が私の目の前にもう一度現れるまでは。

(う、そでしょう……!?)

動揺のあまり眩暈を起こしそうになって、なにかに縋るようにデスクに片手をついた。

ぐしゃりと握りつぶしたプレゼン資料は残業して苦労して完成させたものなのに、今では何の価値も感じられなくなってしまう。

頭の中で蘇ってくるのは過去の残像と忘れられない彼の声。

“石崎さんに時間をあげる”

忘れもしない5年前のあの日。

私の前から忽然と姿を消した彼が、再び戻って来たのだ。