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「あっついねえ〜」

冷房の効いた電車内から1歩降りただけで、じわっと吹き出す汗に朱音は思わずそう口にしていた。
爽太郎とアユも、それぞれに屋外の容赦のない暑さに対してうなり声を上げている。


朱音たち3人の目の前には、「奥森駅」と書かれた看板をかかげた小さな駅舎が夏の日差しに照りつけられていた。


奥森駅は学校からは4駅ほどの距離にあり、
朱音がふだん降りる駅から数えると2駅手前ということになる。

学校周辺にしても朱音たちの地元にしても、駅周辺だけはにぎやかな繁華街が広がり、それ以外の場所はひたすら田畑、というような片田舎だ。

その中間に位置する奥森は、駅周辺すらも田畑と山しかないのどかな場所だった。




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『奥森山のふもとに、昔は縁結びの神様で有名だった小さなお稲荷さんの祠があるの。2人とも、知らない?』

図書室でアユから誘いを受けた朱音と爽太郎は、どこそれ、と2人して首をかしげた。

奥森山はわかるが、縁結びの神様の話など聞いたことはない。

『有名だったのはずいぶん昔のことで、今では地元の人がたまにお参りするくらいらしいんだけどね。
何年か前から、そのお稲荷さんのまわりで不思議なことが起こるようになったらしいの』

うちのおじいちゃんの知り合いから聞いたんだけど、と前置きしてアユは語り出した。

『そこの神様は、ガラスでできたきれいなものが好きなのね。だから近所の人が、祠の掃除なんかをするついでにビー玉とかおはじきを供えてたの。
でもある時、昨日お供えしたばかりのビー玉がぜんぶ粉々に割れてたんだって。
それから何度新しいビー玉を供えても、次の日にはいつもぜんぶ割れてしまうようになったんだって』

『誰かのいたずらじゃない?』

爽太郎がおそるおそる口をはさんだが、アユは『でもそれだけじゃなくてね』と話を続けた。

『山のふもとで、ヒトダマみたいなものが何度も目撃されるようになったんだって。
それも、真っ赤な色のヒトダマが。
ひどい時なんかそれがあんまりたくさん現れたせいで山が赤く染まって見えて、山火事と間違われて消防車が出動する騒ぎにまでなったらしいの』