背ばかり高くて気の小さい草食系男子の爽太郎は、いつもアユの押しの強さにタジタジだ。

朱音はそれがきっかけでアユと仲良くなれたし、爽太郎も本気で嫌がっている様子ではなさそうだ。
でも、霊感持ちだという、彼にとってはコンプレックスだろうことを気軽に言いふらしてしまったのは申し訳なかったなと思う。

「ごめん」と謝ったら、「気にしないでよ、まあ、霊が見えるなんて、人の話のネタになるくらいしか使い道のない力だし」と、優しい爽太郎は笑ったけれど。


「あっ!八谷くんがいるってことは、私もしかしてお邪魔だった?」

ヤダー、とオバサンみたいに手をパタパタするアユに、朱音は「なにが?」と首をかしげた。

「アユちゃんを待ってたのに何が邪魔なの。そうちゃんは図書委員なんだって」

「そ、そうだよ。今日の当番だよ。あ、今日はそろそろ閉める時間だから、二人とも何かかりるなら早めにね」

爽太郎が時計を見ながら言う。
じゃあね、と準備室に戻っていこうとするその背中を、アユが「ちょっと待って」と引き止めた。

「てことは、八谷くんももう帰れるんだよね?」

「うん、今日はもうやることないし……」

アユは「よし」とうなずいて、爽太郎と朱音を交互に見た。

「私、帰りに朱音につきあって欲しいところがあったんだけどさ。よかったら八谷くんも一緒に来てくれない?そのほうが心強いんだ」

「私はいいけど、どこなの、つきあって欲しいところって」

わざわざそんなふうに前置きして誘ってくるなんて、どこへ行くつもりなのか見当がつかず、朱音がたずねる。

アユは声をひそめ、けれど楽しそうに答える。

「キツネの神様がいるところ」

目を見合わせる朱音と爽太郎に、アユはニヤリと笑って言った。



「奥森山の、朧月稲荷様よ」