「待たせてごめんね朱音。おっと、こっちは久しぶり、霊感少年」

赤フレームのメガネごしにアユが爽太郎に視線を向ける。

「ど……どうも」

爽太郎があとずさりながらあいさつをする。
そんな、しっぽを巻いたゴールデンレトリバーみたいな彼に、アユは好奇心旺盛な子猫のようにグイッと詰め寄った。

「どう?最近は何かおもしろそうな心霊ネタある?」

「な……ないない、そんなものそうしょっちゅうあるわけないでしょ」

「えー、だって八谷くん、霊感すごく強いんでしょ?」

「強くないから!ぜんぜん弱いよ、金平さんの期待に応えられるレベルではまったくないよ」

つめよられながら、爽太郎が助けを求めるように朱音に視線を投げてくる。
朱音は苦笑して、アユの肩をたたいた。

「まあまあアユちゃん、夏はまだ始まったばっかりだから、幽霊が本気出すのもまだこれからよ。夏休み明けにどんな話が聞けるか期待しとこ?」

「朱音、それあんまりフォローになってないんだけど……」

爽太郎はブツブツ言ったが、アユは「なるほど」と素直に身を引いた。

「じゃあ二学期にまた取材するわ。文化祭用に出す原稿は気合い入れて書きたいし、強烈なエピソードよろしくね」

「だからムリだって……」

困ったようにうなだれる爽太郎に、朱音は少し罪悪感を感じた。


同じ文芸部員でも、朱音とアユは書く小説のジャンルがまったく違う。

アユが書くのは、幽霊やら妖怪やらが登場して怪奇現象の巻き起こる、いわゆる「ホラー」や「オカルト」のジャンルだ。

四月に同じ部の仲間として知り合ったばかりのころ、怖い話が大好きなんだ、と話すアユに、「そういえば、幼馴染みに幽霊が見える男の子がいて」と教えたのは朱音だった。

「初代校長の霊の説教がうるさすぎるので校長室の掃除当番だけは絶対にやりたくない」とごねた小学生時代のエピソードを笑い話のつもりでしたところ、アユはそれにすごい勢いで食いついてきた。

以来、爽太郎はアユから心霊ネタの取材対象として顔を合わせるたびに熱心なインタビューを受けている。