最後の願いが叶うまで


「そうちゃん!」

一緒に祠に手を合わせていたはずの爽太郎が、その場にしゃがみ込んでいる。
苦しげな息づかいで長身を丸め、どうやら吐くのをこらえているようだ。

「どうしたの八谷くん、具合悪い?吐きそう?」

アユがオロオロとその背をさすっている。
朱音はえずく爽太郎の腕をとりながら、アユに説明した。

「霊気とかにあてられるとこうなっちゃうことがあるの。早くここを出よう。―――そうちゃん行こう、ほら立って」

女子2人で爽太郎を両脇から抱えるようにして、3人は林道まで戻ってきた。

「無理しないでって言ったのに」

「ご、ごめ……なんか突然強いのを感じて……うぇっ」

「わー!しゃべんなくていい!口閉じて!吐かないで!!」

小道を出たところで、爽太郎の胃袋をなだめたり脅したりしながら大騒ぎする朱音たちには、もう手を合わせていた時の神妙さは欠片も残っていなかった。

落ち着いてよ、と朱音は爽太郎の背中をさする。
そうしながらふと、何かが目の端に映った気がして、そちら側に目を向けた。

(女の子……?)

朱音たちがいるのとは反対側の道路脇を、少女が一人、歩いていた。

ピンクのTシャツにショートパンツの、小学校四、五年生くらいに見えるオカッパ髪の女の子だ。
すぐそばで騒ぐ高校生たちには目もくれず、林道を登っていく。

こんな薄暗く、人気もなさそうな山の中の道を、小学生の女の子が一人で歩くものなのか。

気になって、思わずその姿を目で追ってしまう。
少女は朱音の視線になど気付かず、どこか虚ろな目で前だけを見て、黙々と歩いていく。

その手首につけられたブレスレットが、歩くリズムに合わせて揺れている。

鮮やかな緑色のブレスレット。
その色が、やけに目に焼き付く―――。


「もーじゅうぶんだから、このまま帰ろう。写真撮ってないけど、祠の実物見たんだし、それで十分だよ。ね?」

そう言って顔を覗きこんできたアユに、朱音はハッと我に返った。