最後の願いが叶うまで


縁結びの神様に、願い事。
いったい、どんなことを願うのが無難だろうか。

片思いしている学校の先輩……なんて、そんなものはいないし。

戦地に行った家族、なんて、さらにいないし。

(家族……)

遠くへ行ってしまった家族……会えなくなってしまった人……それでももう一度、会いたいと願う人。


―――そんな人は、ただひとりだけ。


(お兄ちゃん……)

強く想った弾みで、面影を閉じ込めたビンの蓋が開き、胸がそのひとでいっぱいになる。

優しさをたたえて光るきれいな瞳が、朱音、と呼ぶおだやかな声が、記憶からよみがえって、朱音の心をさらおうとする。

懐かしい。
慕わしい。
そばにいて欲しくてたまらない。

―――けれどもう、二度と戻らない場所へ行ってしまった兄。

(……会いたいよ、お兄ちゃん……)

神様が、縁を結んでくれるなら。
二度と会えないはずのあのひとに、もう一度会わせてくれるのなら。

(そのためなら、私は―――)


「―――っ!?」

突然太ももの横に沸き起こった燃えるような熱さに、朱音は驚いて目を開けた。

虫にでも刺されたかとあわててスカートの下を手で払うが、そこには何もいないようだった。
ももにも跡は残っていない。

「何いまの……」

「八谷くん!?」

首をかしげているところにアユの悲鳴のような声が響いて、朱音はそちらに目をやった。