アユは意思を固めたようにキリッと顔を上げてこちらを見ていた。
「私が行く。私が言い出して2人をここまで連れてきたんだから、責任持って私が行ってくる。だから朱音はここで待ってて」
いくら引き止めても朱音に止まる気がないと悟って、だったら自分が先頭に立って危険から守ろうという考えらしい。
ここに来ると言い出したのが自分である以上、朱音に何かあれば自分の責任だと思っているのだろう。
アユちゃんらしいな、と朱音は心の中でつぶやく。
ついてきたのも、2人にダメと言われても先に行ったのも、ぜんぶ私が決めたのだから、私自身の責任なのに。
「わかった。アユちゃんが一番先ね。私はその後ろからついてく」
「朱音……」
「もうここまで来たんだから、行くのも待つのも一緒だよ」
林道に入ったということは、3人ともすでに山の中にいるということだ。
アユは少し考えてから、あきらめたように頷いた。
「仕方ないな……朱音がこんなにガンコだとは思わなかったけど。八谷くん、ここからは変な気配とかしない?大丈夫?」
背後の林を指さして確認するアユに、爽太郎が首をタテに振る。
「しない……と思う。山全体の気配も、あれっきり消えたままだけど……」
だとしたところで、そうでなくても妙な噂のあるような場所にこれ以上近づくのは賛成できない……と言いたげに、彼は表情を曇らせる。
「そうちゃんは待ってていいよ。すぐに済ませて帰ってくるから」
幼い頃から何度となく霊的なものの気配にあてられて体調を崩す爽太郎を見ている朱音は、気を使ってそう声をかけた。
とたん、不安げだった彼の顔が、ムッとしたものへと変わる。
「行くよ。女子2人に行かせて俺だけ待ってるとか、さすがにないよ」
どうやら朱音の発言は、駅で老人からもらった『頼りないボディーガード』という言葉に叩かれてへこんでいた男のプライドを、さらに殴りつけてしまったらしい。
これ以上言われっぱなしでなるものか、とばかりに睨んでくるので、「そうか、そうだよね、ごめん」と朱音も思わず謝ってしまった。


