え、とアユが振り向き、爽太郎も驚いたようにこちらを見る。
朱音は続けた。
「こんな目の前まで来て帰るなんて、もったいなさすぎるでしょ。私行って祠の写真とか撮ってくるよ。あとでアユちゃんに送るから」
気軽な調子で言って歩き出した朱音の後ろを、他の2人があわてて追ってくる。
「待って待って、朱音、いいよ、帰ろうよ。朱音が幽霊とか信じてないなら信じろとは言わないけど、八谷くんと約束してたんだからさ」
「幽霊のこともそうちゃんのことも疑ってないよ。長い付き合いだし、ホントに視えてるの知ってるもん」
爽太郎がおかしな気配を感じるというなら、本当におかしな何かがいるのだろう。
そうだとしても、せっかくここまで来ておいて、手ぶらで帰るのはつまらない。
アユがあまりにあっさり諦めるから、だったら自分1人でも行ってこよう。
朱音はただ、そう思っただけだ。
「信じてるなら何で行くのよ。なんか変なものが出てきたり、呪われたりするかもよ?」
―――そうなったらなったで、べつにかまわない。
心にそんな思いが浮かび上がってくるのを、また心の奥の方に沈め直しながら、朱音は「大丈夫だって」と笑ってみせる。
「ちょっとくらい平気だよ。2人はここで待ってていいから」
「ダメだってば朱音〜!」
ふと、一緒についてきている爽太郎が何も言ってこないことに気づき、朱音は彼に目をやった。
朱音たちの後ろを歩く爽太郎は、前方の2人のやり取りを気にしながらも意識の半分は別のところにあるようで、チラチラと山の方を伺っている。
「八谷くんも引き止めてよ!」
アユに腕を引かれ、彼は我に返ったような顔でこちらを向いた。
「そうちゃんも、無理しなくていいよ。変な気配の場所とか行くと、具合悪くなるでしょ?」


