最後の願いが叶うまで


「……私は、」


「金平さんは3年の涼城先輩と付き合いたいって願うんでしょ?」

朱音の乾いた口から押し出されるようにして言葉が零れそうになった瞬間、爽太郎がさえぎるようにそう声を上げた。

はあ!?とアユが目を剥く。

「何言ってんの!?ていうかなんであんたが先輩のこと知ってんの!?」

「いやー、風のうわさで?」

「うわさ!?ちょ、ちが、私べつに先輩のことなんか何とも思ってないし!」

「いやー、うわさではかなり夢中になってるって聞いたけど〜」

「わー!!」

爽太郎につかみかかったアユが、黙れ、とばかりにその胸ぐらを揺さぶる。
「うえっ」と呻きながら揺れる爽太郎が、一瞬うかがうように朱音を見た。

目が合って、朱音はギクリとし、零れ落ちかけていた言葉を喉の奥に押し込む。

「朱音!違うから!そんなうわさ信じないでよ!?」

爽太郎を揺すっていた両手が、今度は朱音の腕にすがるように抱きついてくる。

「え、う、うん。大丈夫、信じないよ」

朱音はそもそもそんなうわさも、涼城先輩という人物すらも知らないので、アユがそう言うなら頷いておくしかない。

「そ、そうちゃんはどんなお願い事するの?」

アユをなだめつつ、気を取り直すように爽太郎に尋ねる。
けれど爽太郎は、その質問には答えずに、ぴたりと足を止めた。

「そうちゃん……?」

答えない、というよりも、彼は朱音たちの声が耳に入っていないようだった。

「どうしたの?」

爽太郎は無言で前を見つめている。

朱音とアユは、何ごとかとその視線の先を辿った。

「あ、あれがおじいさんが言ってた林道かな?」

爽太郎の視線の先には、山の緑の途切れ目があった。

あと五十メートルも先だろうか。
国道から分岐したアスファルトの道路が、山の中へ続いているのが見える。

老人の話では、これが奥森山を越えて隣町まで続く林道で、ここを入ってすぐの所に朧月稲荷があるということだった。