「見返り?ううん、聞いてない。縁結びの神様、ってことしか……。お供え物とかしないとダメなのかな?油揚げとか」
「わかんないけど、タダで願いは叶えてくれないと思うなあ……。だいたい、俺たちは縁結びのお願いじゃなくて、そこが怖い場所かもってのを調べに行くんでしょ。お稲荷さんに祀られてる得体の知れない霊が、『久しぶりに人が来たと思ったら冷やかしかよ』って怒ったりしたらどうする?」
「……」
爽太郎の話はすべて「こうかもしれない」という仮定の話でしかない。
けれどアユにしろ朱音にしろ、「考えすぎだ」と笑えるだけの否定材料を持っていなかった。
朧月稲荷の由来など、何も知らない。
朱音は横目でアユを見やった。
私は別に引き返しても構わないけど、さあアユちゃん、どう出る?
「じゃあ、ちゃんとした縁結びのお願いをするつもりで行くことにしよう。これなら冷やかしにはならないでしょ」
アユはめげなかった。
そういう問題じゃないんじゃ……と爽太郎が肩を落とす。
朱音は苦笑して、「なら私も質問なんだけど」と手を上げた。
「縁結びの神様はわかったけど、具体的にはどんな縁をとりもってくれるの?好きな人と両想いになりたいとかそういうやつ?」
「ああ、そういうお願いする人が多かったみたいだけど、恋愛関係じゃなくても別にいいんだって。生き別れた兄弟に再会したいとか……私に朧月稲荷の話を教えてくれた人は、子供の頃に戦争に行ったお兄さんが家族のところに帰って来れるように願掛けしたって言ってたな」
「じゃあ、自分と相手の結びつきを強めたいって願いなら何でもいいんだね」
「そうそう、あと、もう一度会いたいとか、そんな感じの願い事とかだね。まあお供え物は持ってないから叶うかどうかはどうでもいいとして、どんなことお願いしようかなあ」
朱音はどうする?とアユがこちらに尋ねてくる。
「私は……」
促され、朱音は考える。
縁結びの神様。
想う相手と自分との絆を繋いでくれる神様。
手が無意識にスカートのポケットに伸びる。
そこに押し込んだままの、小さなアクセサリーケース。
もう一度会いたい人と、会わせてくれる……。


