最後の願いが叶うまで


アユも同じように感じているのか、少し拍子抜けしたように肩を落とした。

「そうだねえ。なんか、『のまれる』とかなんとか、よく分かんない冗談は言ってたけどね」


『あんたらみたいな若い娘さんが山に入るなら、山に呑まれないように気を付けなよ。まあ、お稲荷さんがあるのは山の入り口だし、ボディーガードもいるみたいだから関係ないか』


ちょっと頼りなさそうだけどなあ〜、と爽太郎の肩を叩いてケタケタ笑っていた老人の言葉を思い出して、朱音とアユは顔を見合わせる。

「変なところに踏み込んで道に迷ったりヘビに咬まれたりするなよって意味じゃないの?変質者とかもいるかもしれないし」

そんなの出てきても俺守れないからね、と拗ねたように爽太郎が2人に釘を刺す。
どうやら「頼りないボディーガード」扱いされたことで気を悪くしたらしい。

「それに、学校でも言ったけど、お稲荷さんっていうのはそれ自体が危ない場合も多いんだよ。日本三大稲荷とかの大きな神社ならともかく、民間信仰っていうか、小さな地域の中で地元の人だけが信仰してるような神様は、実は神様なんかじゃないってことも結構あるんだ」

「そうちゃん、そういう話けっこう詳しいよね」

「知っておけば危ない橋を渡らないで済むこともあるからね。今日みたいに危ない橋渡りツアーにムリヤリ参加させられることもあるけど」

自分に向けられたイヤミなどまるで気にせず、アユが手を上げて質問する。

「じゃあ朧月稲荷の神様も、神様でも何でもないただの狐の霊だったりするかもってこと?」

「狐の霊かどうかもわからないよ。他の動物とかまたは人間の霊が狐の姿の霊体になったのかもしれないし、もっと得体の知れない存在の比喩として『狐』って言葉を使っただけかもしれない」

「で……でも、何の霊がわからないとしても、縁結びのお願いを叶えてくれてたんでしょ?だったら、いい霊だってことじゃないの?」

「それだけでいい霊とは言いきれないよ。願いを叶える代わりに、ムチャクチャな見返りを求めてきたりしたのかもしれないし……そういう話は聞いてないの?」