最後の願いが叶うまで


『でもねえ、あの場所の管理してた人もしばらく前に亡くなって、今はだいぶ荒れてるんじゃないのかねえ。若い人が期待するようなろまんちっくな所じゃないと思うよ』

『ロマンチックとかは別にいいんです。私たち、若水高校の郷土研究部の部員で。夏休みに学校周辺のお地蔵様とか祠とか、そういうのの歴史を調べることになって……』

アユが説明すると、老人は「なるほど、そういう部活があるんだね」と感心したように頷いて、祠までの道順を教えてくれた。

もちろん、部活動うんぬんなどというのは口からでまかせだ。
そもそも朱音たちの高校にそんな名前の部があるのかすら怪しい。


「よくそういうウソがすらすら出てくるよなぁ……」

「ほら吹き名人みたいな言い方やめてくれる?機転がきくって言ってよ」

「悪知恵がはたらく……」

「なんだと?」

鬱蒼と枝の茂る山の斜面に沿って国道の道路脇を歩きながら、アユと爽太郎が互いを小突きあっている。

道の反対側には田んぼが広がり、山の重い緑とは対照的な鮮やかな稲の緑が、夏の日射しにきらめくようにそよ風に揺れている。

朱音は2人のやりとりを笑って眺めながら、のどかだな、と思う。

まわりの景色も、このデコボココンビの漫才のような会話も。
心霊スポットなどという負のエネルギーの溜まり場みたいな場所を目指しているにしては、あまりにのどかで、のんきだ。

ごちゃごちゃと言い合う2人をなだめるように、朱音も口をはさむ。

「でもあのおじいさん、私たちのことぜんぜん止めなかったね。あのお稲荷さんは危ないとか、変な噂があるから近付かないほうがいいとか、言われるかと思ったのに」

単にあの老人が噂を知らなかったか、知っていても気にしない人だったのかもしれない。
けれど地元の人があっけらかんとしているのを見ると、やはり朧月稲荷の怪なんて誰かがおもしろおかしく話を膨らませただけなのだろうという気持ちが強くなってくる。