ひだまりみたいな優しい笑顔。

おだやかな声。

朱音、と私を呼んで、差しだしてくれる手のひらのあたたかさ。

幼い私はいつも、世界のすべてがそこにあるみたいに、あなたを見上げていた。

あなたと手をつなぐと、まるで世界中の誰よりも守られた存在になったみたいな、絶対的な安心感にくるまれた。

優也お兄ちゃん。
私はあなたのことが大好き。

無邪気にそう思っていた。

でもそれは時がたつにつれ、大きく重くなりすぎて、伝えたらそのまま凶器になりそうなほどで、だから無邪気に口に出せなくなって。

苦しくて、ほとんど恋みたいだった。
ううん、恋だったんだ。
だって妹じゃなければ、この想いはきっと彼への凶器になったりしなかった。
妹じゃなければ、この想いは花束みたいにきれいなものとして、彼に贈れたかもしれない。

でも私は、妹だったから。
優也お兄ちゃんに、叶うはずのない恋をした。


そしてその恋を、失った。


あの日からずっと、終わった世界の朽ちた森のなかで、もう迎えに来るはずもない優しい手のひらを探して、私は途方にくれている。