立ち上がった瞬間、腕をつかまれた。前へ引っ張られる感覚がする。
溢れる前髪の隙間から、彼のかんばせが覗く。赤に染まっている肌が可愛くて仕方ない。
「ふみ」
「はっ、はい」
いつもそう、京くんに呼ばれる私の名前は、甘くて蕩けそうで、多分他の子の名前を呼ぶときよりも、うんと甘酸っぱい。
甘くてしんじゃいそう。
「一緒に大人になれるの、嬉しいよ」
紡がれた言葉に私は、胸が締め付けられた。
「京くんも、私のこと好きだって勘違いしてもいいの?」
「勘違いじゃない。全部、ほんとだから」
そう優しく言って、彼は私の手を握った。
図書室の古書の匂い、静寂に包まれた空間。足音ひとつさえ響かない箱の中で、今日も息を目一杯吸うように、恋をしている。
*END*