食べたい物を確保して、二階に逃げる。後ろでは、例年以上に酒宴が盛り上がっている。後ろから、へんな事するな~、してもいいぞ~なんて聞こえて、そのたびに、笑い声が上がる。止めるような大人はいないのか?って思うが、メンツを考えたら無理だと悟った。
恵子がトントンっと階段を上がって、その後を食べ物、飲み物をもって、上がろうとしたら、恵子の後ろ姿、特に、お尻が目に入って、親父さんが言ったことを思い出してしまった。
どうした~?早くしろ~って、恵子の声に、おうって答えると、俺も階段を上がっていった。
二階のベランダには、小さいテーブルと椅子が二脚あり、そこで毎年、恵子と花火を見ている。以前は、親達も二階に来てたけど、酒宴がメインであり、料理やお酒を運ぶのが面倒くさいって母親達の御言葉で、一階での酒宴開催となっている。
持ってきたものをテーブルに並べ、花火の始まりを待つ。
時間は、6時45分、花火は7時からだから、後、15分ある。
部屋の電気を消して、椅子を花火の方向に向けて、恵子と並んで座る。
恵子が、ジュースをついでくれて、お疲れさまって、二人で乾杯した。
「でも、今日の隆、久しぶりに格好よかったな~」恵子か、たこ焼きをつつきながら、言った。
「そ、そうか?、俺は、いつでも格好いいけど」
ふ~ん、言うね~なんて返された。
「タベッチと京子ちゃん、いたな。なんか、いい雰囲気だった。」
「うん、あの後、何回かデートしてるんだって」
ふ~ん。とか言いながら、時間が気になる。
「あ、あのな、恵子に、きちんと言いたいことがあるんだ。」
「え~、なになに?」
「あ、あのな、俺って、恵子に、きちんと、コクってないじゃんか?」
「えっ?コクられてるよ」
「えっ?いつ?」
「幼稚園の時、ボク、ケイコチャンノコト、ダイチュキ!オオキクナッタラ、オヨメチャンナッテネ。って」
子供のマネまでして言われた。
「ええっ?、それを信じてたの?」
「ええっ?嘘だったの?」
「いや、嘘じゃないけど・・・」
「えっ、隆、まさか、覚えてないの?」
普通、覚えてるか?、覚えてたとしても、小さい女の子が、大きくなったらパパのお嫁さんになるっていってるのと、同じレベルの話じゃないの?
「きちんと、覚えてるけどさ。」思わず嘘を言ってしまった。
「だよね!そのとき、キスまでしたんだから。私のファーストキスだったんだから!」コクってないと思ってたら、プロポーズして、ファーストキスまで・・・
「本当に覚えてる?」
恵子が、疑いだした。
「お、覚えてるよ~」
な、なんとか誤魔化さないと・・・
「い、いや、俺が言いたいのは、そんな、子供の頃の約束みたいなのじゃなくて、大人のっていうか、正式な、みたいな事を言っておいた方がいいと思って・・・」
「なるほどね。それはそうかもね~。」
誤魔化せたかな?
「わかった、じゃあ、コクって!」
コクってってなんだ?なんか、おかしいだろ。
でも、まあ、しょうがないよな。
「恵子、俺は、恵子が大好きだ。たから、付き合ってください」
「う~ん、もう、付き合ってるからね~。なんて、返事すればいいのかな?」
「い、いや、恵子が付き合ってると思ってくれてるなら、それでいいんだ」
「いいって訳にはいかないよ。これからも、よろしくお願いします。かな」
「うん、よろしくな」
その時、ドーーンと花火が上がった。
「あっ、始まった!」恵子の顔が花火の光で照らされる。
「うん、始まった。」寿命が1年くらい縮んだ気がしたが、これで、俺と恵子の仲もハッキリしたし、自分の中のモヤモヤも解決できたと思う。
よいしょって、恵子が椅子を寄せてきた。俺も恵子に肩が触れるまで寄せた。
恵子が、俺の肩に頭をあずける。
「今年の夏はいろいろあったね。」
「ああ、いろいろあった。」
「隆って、花火みたいだね。
」夜空に大きな花が咲く
「パッと開いて消えていくとこが?」
「それもあるけど・・・」
パッと、大きな花が咲いて、ドーーンと大きな音が響く。
「消えても、また、次のが咲くじゃない。」
連続でパッ、パッと咲き、ドンドンと音が響く。
「今年の花火が終わっても、来年も、再来年も、ず~っと、ず~っと、続いていくんだよ。」
一際、大きな花がパッと咲き、ドドーーーンと地響きをたてて、音が響く。





「今年は咲かなかったけどね。」
け、恵子さん、それは言わないで・・・
「来年、大きいのを咲かせればいいじゃない」

おしまい