「砧怙の名前は知ってるのに顔は知らないし、衢肖さんに至っては示談の条件にも関わらず知らないって……、金出した割には随分ずさんな調べだな。」



同じ弁護士としてその調査方法に、節は不愉快になる。



「え?衢肖さんが示談の条件って、どういう事ですか?」


「いや、それは俺にも……」



目を見開く卿焼に、理由までは知らないと節は言った。



「その件については、私から話そう。」



薔次が重く話始めたのは、巫莵が事務所に来る前の事。



「橋に佇んでいたんだ。その顔がなんとも言えなくてな。」



それは4年前に遡る。


薔次が小雨降る中帰宅を急いでいると、橋の欄干に両腕をつき凭れ掛かっている女性を見かけた。


傘も差さずに、暗く悲しい顔をしながら遠くを見つめる巫莵を。



「どうかされましたか?雨に濡れては風邪をひきますよ。」


「……いいんです、濡れたい気分なんで…。それにもう、この世に私の居場所なんてありませんから。」


「…良かったら話だけでも聞かせてもらえませんか?私は弁護士であり、決して怪しい者ではありませんから。」



自殺を仄めかす言動に、刺激しないよう努めて誘った。