片付けも済んでないまだ、なにもない
家の中で奈津と母親は2人で
引越し祝いをしていた。

ビール片手に、うれしいせいか
ほろ酔いの母親は色んな話をし出した。

「ママね、ずっとここに住みたかったの」
そんなことは今までに1度も聞いたことが
なかったから、奈津は驚いた。

「ずっとって、いつぐらいから?」
母親は少し微笑んで・・・
話はじめた。

「ママがね、小さいころにこの近くの
 家で暮らしてたのよ。」
目を細めて、懐かしそうに話す母親の
顔をじっと見つめて話を聞き入った。

「奈津のおばぁちゃん、私のママね・・
 おばぁちゃんも早くに離婚して
 女手ひとつでママを育ててくれたの・・
 それは、奈津も知ってるよね?」

「うん、おばぁちゃんとは会った記憶は
 ないけど・・・亡くなったんだよね?」

「そうなの、ママが高校生になる時に
 おばぁちゃんは天国に行ったのよ。」

その為に、高校へは進学できなかったこと。
この土地を、離れることになったこと。
少し寂しそうに語ってくれた。