司はその日、1日中ずっと側にいてくれた。


陣痛がくるたびに、腰や背中をさすってくれていた。




傍目には幸せそうな夫婦の微笑ましい光景に見えるだろう。


でも…私達の間には、何の会話もなかった。



沈黙が続く中で、ただ時だけが過ぎてゆく。



そんな状況の中でも、司が来てくれた事で、私は少しだけ期待してしまう。


もしかしたら…と思わずにはいられなかった。



ほんの少しだけ、ほんの少しでいいから未来に望みを持ってもいいですか?


司、あなたと赤ちゃんとの3人の幸せな未来を夢みてもいいですか?



そんな思いもむなしく、私と赤ちゃんが退院する日まで、司が病院に姿を見せる事はなかった。



私が娘を産んだ病院は、産まれた次の日から、母子同室が義務づけられていた。


私は次の日からすでに、産まれたばかりの娘の夜泣きに悩まされていた。


どこの病室でも何時間かおきには、赤ちゃんの泣き声が聞こえてはいたけれど、この子は何十分おきのペースで泣いていた。


オムツが汚れている訳でもなく、ミルクが欲しい訳でもない。



もう、毎日毎日何で泣くのぉ。
何が気にいらないのぉ
いい加減にしてよ。


同室の人達にも申し訳なく、私はイライラする気持ちを抑えて、小さな娘を抱きかかえながら狭い病棟を毎晩のように散歩していた。




司が病院に顔を出してもくれない事で、私の気持ちはズタズタな上に、睡眠不足も続き、産まれたばかりの娘を可愛いなんて思う事もできなかった。



この頃から少しずつ、産まれたばかりの小さな娘に、私の狂気がむけられていった。