岡崎さんは、何も言わず俺の側にポケットティッシュを置いてくれた。


俺は、そのティッシュで涙を拭き鼻をかんだ。



｢本当に最低ですよ。｣


岡崎さんの言葉が胸を射す。



｢井上さんも、確かにつらかったかもしれない。

でも、そんなのは奥さんのつらさの比じゃない。

井上さんは、何もかも知っていながら逃げ続けたんですから。｣


俺は、ただ頷く事しかできない。

岡崎さんの言ってる事は当たり前の事だった。



｢まだ、逃げるんですか？

今度こそ、奥さんと優ちゃんと向き合うべきではないんですか？｣



真っ直ぐに俺を見る岡崎さん。



俺は何も答えられない。



｢気持ちさえあれば、必ずやり直せます。

奥さんとの関係も、優ちゃんとの関係も…


話し合えた、隠し事がなくなった今だからこそ、やり直せるんじゃないですか？

別れるのは簡単です。


でも、人の気持ちはそんなに簡単なものじゃない。

この先奥さんも、優ちゃんも、あなたの事をずっと引きずって生きていかなきゃならないんですよ。｣



岡崎さんの真剣な思いが心に響く。



｢今まですれ違ってきた２人が、今度こそ向き合える最後のチャンスじゃないですか？

権利がないとか資格がないなんて逃げる事の言い訳ですよ。｣



最後のチャンス…



俺の頭の中に、岡崎さんの言葉が駆け巡る。