「何を描いてるの」
これだけの言葉なんて
勇気を出せば聞けたのに

僕は臆病で

彼女が話しかけてくれた時に
やっと言えたんだ


桜の花びらが散り、葉が混じり始めた5月の日

「マーカーってどこに置いてあるんだっけ」
遠慮がちに彼女が聞いてきた

「多分……そこの引き出しの3段目にあったはず」

「ありがとう」
微笑んだ彼女が眩しくて

どういたしまして、って言葉さえ紡げなくて
でも会話を終わらせたくなくて
慌てて
「何を…描いてるの」

なんてやっと言えた


彼女はこちらを振り返り
ちょっとだけ驚いたような顔をして
「内緒」
と笑った