ーside遥香ー

私は、あれからちゃんと治療も受けてようやく退院も決まり、先生と退院と私の引越しの準備が始まった。

治療に専念してたからか、久しぶりに体調がいい。

やっぱり、空気が吸えるっていいな。

コンコン

ドアが叩く音がした。

「はい。」

「遥香!」

入ってきたのは私の親友、千尋だった。
どうして?今日って平日じゃなかった?

「千尋!なんで?」

「なんでって、お見舞いに来たんだよ。遥香、ずっと学校に来てなかったから担任に許可もらってここに来たの。」

「でも。そんなことしたら千尋皆勤がなくなるよ?」

「あのねー、友達お見舞いくらい休んでもいいの!皆勤とかどうでもいいし。遥香に会えるためなら何でもするんだけどー。」

「千尋。ありがとう!」

「それとね?…早く入りなよ!」

「え?」

「遥香。」

中に入ってきたのは幼なじみの大翔だった。
でも、なんで大翔まで?

「遥香、久しぶりだな。」

「よくここが分かったね。」

「千尋と先生に聞いたから。」

「そうなんだ。」

「はい、これ。」

千尋がくれたのはみんなからのメッセージ付きの色紙だった。

「これ…。」

「遥香、そういうのあまり好きじゃないって知ってたけど、みんなが遥香のためにって。遥香に元気になってもらいたくてメッセージ書いたんだ。」

前までの私は、こういうものをただの同情としか思ってなかった。
そんな同情が嫌いで、千尋にも当たったことがある。

でも、自然に涙が出てきて今は嬉しくて素直に
「ありがとう。」
千尋と大翔にそう口にしていた。
「それから、これ。」

「なに、これ。」

「遥香が休んでた分のノートコピーしてきた。よかったら、使って。」

「大翔、千尋、ありがとう。」

「困ったことあったら言ってね。」

「うん!」

再びドアがあいた。

「遥香。血圧と体温測りに…」

「こんにちは!」

「遥香のお友達?」

「はい!天音千尋です。」

「柊大翔です。」

「遥香の主治医の佐々木尊です。遥香のことよろしくな。」

「こちらこそ!遥香のことをよろしくお願いします。」

「今から診察したいんだけどいいかな?」

「あ、分かりました。じゃあまた来るね。」

「うん!」

そう言うと、大翔と千尋は部屋から出た。

「邪魔して悪かったな。」

「いいよ。」

「あ、これ授業のコピー?」

「うん。教科書進みすぎて理解できそうにもないけどね…。」

「勉強くらい、俺が見てやるよ。分からないところとかまとめておいてくれれば見るけど。」

「いいの!?」

「ああ。でも、少しでも具合が悪そうだったら寝かせるけどな?」

「大丈夫!最近調子がいいの!」

「それはよかった。立ちくらみとかも減ったか?」

「あー…。」

「1回寝た状態で測るな。」

そう言うと、先生は急に医者の顔になり私の腕にマンシェットを巻いて血圧を測り出した。

「今日も低いな…。」

「いくつ?」

「94だ。」

「上半身だけ起こせるか?」

「うん。」
私は先生の手を借りながら体を半分だけ起こしてすぐに腕にマンシェットが巻かれた。

「まだ低いな…。」
先生はそう言うと難しい顔をしていた。
それから、いつものように胸の音を聞き喘鳴がないか確認していた。

「喘鳴はないから退院はできるよ。まだ血圧低いから無理はするなよ?あと!油断も禁物。喘鳴がないからって、絶対発作が起きないないなんて言えないからな?」

「はい。」

「今日1日様子みて、明日退院しよう。」

「本当に退院できるんだよね?」

「あぁ。でも、退院してからも俺の診察を家で朝は必ずやるからな?」

「えー…。」

「遥香ー?」

「はい。」

「それと、夕方に荷物まとめにくるけどいいか?」

「はい。」

「よし。何かあったらすぐに呼ぶこと。」

「はーい。」

一緒に暮らすとなると体調が悪いとすぐにばれちゃいそうだな…。

それでもやっぱり、誰かと久々に一緒に暮らすなんて変な感じだな…。

施設以来だから緊張する。

それから、私の退院の日になった。

「退院おめでとう!」

真っ先に言ってくれたのは私の担当してくれた近藤さん。

「ありがとう。」

「体、大事にね!」

「はい。」

近藤さんと仲良く話してると後ろから尊先生の声がした。

「遥香、そろそろ行くよ。」

「はい。」

先生は、私の荷物を持って私の肩を支えながら病院を出て車に乗せた。

「そこまでしなくて大丈夫だよ。」

さすがに、そこまで介護されなくても動けるよ。

「ダメだ。まだ、ちゃんと治ったわけじゃないんだからな?」

『ちゃんと治ったわけじゃない。』か…。

そうだね…。
私の喘息は、治りが難しくて完治する見込みなんてない。

また、いつ発作が出るか分からない。

はぁ…。

「どうした?体調悪い?」

ずっと俯いていた私に気づいた尊先生は私の顔を覗き込む。

「大丈夫です。」

「そっか。ここからすぐだけど、眠っててもいいからな?」

「はい。」

それから、尊先生は車の中にあった毛布を私にかけた。

「寒くないか?」

「うん。」