ーside遥香ー

私は、あれから2日に1回の治療を始め、段々と発作がよくなってきて1週間に1度の通院になった頃だった。

いつも通り、今日も普通に診察を受けて帰るはずだった。

なのに…
まさかあんなことになるなんて思ってもいなかった。

いつも通り、待合室で名前を呼ばれるのを待っていた。

すると、病院中に漂うきつい香水の香り。
匂いがきつくて呼吸が苦しくなる。

だけどこの匂い知ってる。
懐いけど私が1番嫌いな匂い。

これは、母親の香りだから。

まさか…
まさかね。
こんな所にいるはずないよね。
きっと考えすぎなだけ。

すると、後ろから声がした。

「遥香ー?」

聞き覚えのある声。
聞きたくもない声。
今まで忘れかけていた声。

振り向いたら全てが終わる気がした。
私は、壊れてしまう。
そう感じた。

そんなことを考えいると、

「白石遥香さん。第3診察室へお入り下さい。」

と呼ばれた。

動きたいのに動けない。
強い金縛りにあったみたいに私はその場に固まり、しゃがみこんでいた。

そして、両肩を触られ、

「やめて!」

そう叫んでいた。

怖くて、あなたの手が怖くて。

「遥香?何言ってるのよ。お母さんでしょ。」

母親?
今更私に何の用?

「何…しに来たんですか…」

「なーにかしこまってるのよ。あんたを迎えに来たの。」

迎えに来た?
何言ってるの?
今更…
私に関わらないで!

「遥香!?」

中々診察室に入らなかったから、私の異変に気づいてくれて尊がとっさに私を抱きしめた。

でも、安心できるはずのこの温もりが怖くて、頭が真っ白になっている私にはみんなが敵に見えて、母親の元へ連れ戻されるって思って、尊のことまで突き放した。

「触んないで!」

「遥香、落ち着いて。俺だ。大丈夫、安心しろ。」

私は、尊の声が今は聞き流されていった。

それでも尊は震える私を抱きしめ、背中をさすってくれた。

「近藤さん!ペーパーバックだ。至急、紙袋持ってきて!あと、喘鳴もあるから吸入器も!」

「遥香、俺がついてるから大丈夫だからな。」

尊のその言葉を最後に私は意識を手放した。