ーside尊ー

遥香が、あんなに感情を外に出してくれたのは初めてだった。

正直、驚いた。

喘息の、発作が落ち着いたばかりなのにあそこまで体力が残っていたなんて。

それよりも、遥香の精神状態は安定していると勝手に思ってた俺も悪かった。

遥香は、自分を思い詰めていた。

ちゃんと見ていたはずが、遥香のことを見れていなかったのかもな…。

腕の中でぐっすり眠る遥香を優しくベッドの上におろした。

それから、聴診器を当てた。

喘鳴がさっきよりも聞こえる。

楽に眠れる体制に整え遥香の小さな手を握りしめる。

部屋の物は、近藤さんが片付けてくれたんだな。

遥香のいつもの入院生活をそばで見ている近藤さんじゃなければ、このように物が正しい位置へ戻せない。

遥香が起きたら一緒にお礼を言いに行くか。

しばらく様子を見ていると、苦しそうな表情をする遥香を、寝ているところ可哀想だとは思ったが上半身だけ起こして吸入させた。

「ごめんな、起こして。苦しくないか?」

「うん。」

発作が起きる前におさまってくれた。

「尊、さっきは暴れてごめんね。」

「いいんだよ。でも、少しはすっきりしたか?」

「うん。」

「それなら、よかった。溜め込む前に俺に話せることは話してほしい。さっきみたいに。言いたいこと、何でも言える関係の方が俺は嬉しいしな。」

言いたいことを言えない関係なんてそんな浅い関係は望んでない。

遥香にはもう無理をしてほしくない。

「分かった。」

「遥香、俺は仕事に戻るけど何かあったら我慢しないでナースコール押すんだよ?すぐに行くから。それから、仕事が終わったら一緒に帰ろう。迎えに行くから。」

「うん!」

やっぱり、家に帰れると遥香は嬉しそうだな。
本当なら、入院をしなければいけないくらいピークフロー値は安定してない。

でも、俺がちゃんと診ることを条件に院長からの退院の許可が降りた。

通院となっても、遥香のお母さんと会わせないようにしなきゃな。

産婦人科で知り合いの看護師はいないしな…。

そんなことを考えていると後ろから声がした。

「尊先生、遥香ちゃん落ち着きました?」

「あ、落ち着いたよ。さっき発作が起きそうだったから吸入しておいた。それから、遥香の病室片付けてくれてありがとう。」

「いいんです。それよりも、驚きました。遥香ちゃんがあんなに感情的になったのは初めてだったもので…。それだけ、尊先生のことしっかり信用してるってことですよね。私も頑張らなきゃいけませんね。」

近藤さんも、やっぱり初めてだったのか。

「近藤さん、遥香自分で発作をコントロールすることが今は難しいみたいだから、時間がある時でいいから様子見に行ってくれる?もし、発作がおさまりそうになかったら呼んで下さい。」

「はい。分かりました。」

俺は、外来に戻り患者の診察を始めた。

平日の日は混むから遥香の元へ行けるのは20時すぎるかもな…。
でも、近藤さんに診てもらってるから大丈夫かな。

一応、朝陽にも言っておくか。

それから、診察の前に朝陽に連絡し見ててもらうことを頼んだ。