キミ専属

 しばらくすると、私の元に休憩中の翔太さんがやってきた。
「お疲れ様です…」
そう言った私の顔を心配そうに覗き込む翔太さん。
「どうしたの?梅ちゃんのほうが疲れた顔してるけど」
「……!!!」
顔が近い!!!
私はババッと翔太さんから距離を置く。
すると翔太さんは寂しそうに私の名前を呼ぶ。
「梅ちゃーん。離れていかないでよー」
「嫌ですっ」
だってあんな風に近付いてたらまた「付き合ってる」とか勘違いされちゃうもんっ。
私はプイッとそっぽを向く。…すると。
「そういえばさ」
いつもよりトーンが低い声で話を切り出す翔太さん。私はまたドキッとして翔太さんのほうを見る。
「さっき、水瀬と何か話してなかった?」
私に問い掛ける翔太さんの顔は真剣そのもの。
ドクン…ドクン…
高鳴る胸の音。
『なにその顔…っ』
私は思わず胸を抑えるとこう言った。
「話しましたよっ。友達にもなりました」
すると、翔太さんは真剣な顔のまま「そっか」と言った。
私は胸を抑えたまま翔太さんに問い掛ける。
「水瀬さんがどうかしたんですか…?」
「………」
突然黙り込む翔太さん。
私は少し心配になって翔太さんのそばに近付く。すると、翔太さんはハッと我に返り、いつもの笑顔でこう言った。
「なんでもないっ。じゃ、俺撮影戻るねっ」
私の元を去っていく翔太さん。
…なんか、何か隠してるのが見え見えなんだけど…。

 それから私は考えていた。翔太さんが隠していることは一体何なのだろうと。
何故こんなにも翔太さんの隠し事が気になるのか自分でも分からない。だけど、どうしても気になってしまうのだ。
『水瀬さんと過去に何かあったとか…?』
そんなことを考えていると、張本人が登場。
「梅ちゃんっ!ケータイ持ってきたよー!!メアド交換しよ〜!」
…水瀬さんだ。私はスーツのポケットからケータイを取り出し、水瀬さんとメアドを交換する。
「よしっ、登録完了〜♪」
私とメアドを交換すると、嬉しそうに口元を緩める水瀬さん。
そんな水瀬さんに私は意を決して言ってみる。
「あの…水瀬さんって過去に翔太さんと何かあったんですか…?」
…すると、水瀬さんはどこか恐ろしさを感じさせる笑みでこう言った。
「付き合ってたよ。…奪われたけど」
あまりに衝撃的すぎる言葉だった。私は思わず聞き返す。
「奪われた…?」
「そう。あなたの前に翔太のマネージャーをやっていた女にね」
目の奥に怒りを滲ませながら淡々と話す水瀬さん。口は笑ってるけど、恐い。さらに水瀬さんはこう続ける。
「そうそう。あの女、あなたの顔にそっくりだったんだよねぇ」
「……!!!」
その瞬間、私はこれまであった出来事の全ての意味が分かった気がした。
…そっか。
翔太さんは前のマネージャーさんと私を重ね合わせてたんだ。だから私を強引に自分のマネージャーにして、メールをいっぱい送って、甘い言葉をたくさん言って、あんなにベタベタ触ってきたんだ…。
「何泣いてるの?」
水瀬さんの言葉で自分が泣いていることに気付いた。
私は無理に笑って水瀬さんにこう言った。
「あ…はは…っ。なんで…泣いてるんでしょうね…っ。自分でもっ…よく…分からない…です…っ」
無理に笑えば笑うほど溢れ出る涙。私の顔はもう既に大洪水。

「なんで泣いているのか分からない」なんて嘘だ。
私はこの時、痛いほど思い知らされていた。
私、翔太さんが好きなんだ━━━━━。