キミ専属

 スタジオに着いた翔太さんと私は、雑誌関係者の方々に挨拶回りをする。一通りの挨拶が終わると、翔太さんは撮影用の衣装へのお着替えとヘアメイクをするため、私の元から離れた。
1人になった私はこれから撮影が行われるスタジオをキョロキョロと見回す。スタジオには沢山の機材が置いてある。足下にもどれがどの機材に繋がっているのかよく分からないようなコードが沢山。
私も七五三や成人式の前撮りの時に撮影スタジオに来たことはあるけれど、それとは規模が全然違う。
『うわあ…ドキドキする…!』
思わず仕事を忘れてドキドキしながら撮影が始まるのを待っていると。
…ポンッ
頭の上に優しい手が降ってきた。
私はハッとして振り返る。
「翔太さん…!」
私の頭の上に手を置いていたのは翔太さんだった。ニコニコと笑う翔太さん。
だけど、着替えとヘアメイクを終えた翔太さんはいつにも増してすごくかっこいい。
「素敵です…!」
うっとりしながら呟く私。
すると翔太さんはニコニコしながらこう言う。
「惚れた?」
それを聞いた私は即答。
「惚れてないっ」
すると、どこかから「翔太さーん」と呼ぶ声がした。その声を聞いた翔太さんは私の頭をぽんぽんすると、「撮影いってくるね」と言って去っていった。

 パシャッ…パシャッ…
翔太さんの撮影が始まった。
ワンショットごとにポーズや表情を変えていく翔太さん。
そして、翔太さんがポーズや表情を変えるたびにスタジオには「いいねぇ!」という声が響く。
私はそんな翔太さんの撮影に見入っていた。
『翔太さんすごい…!かっこいい!』
…すると突然、私の背後から小さな女性の声がした。
振り返ってみるとそこには薄茶色のウェーブがかったロングヘアが特徴的な美人さんが立っていた。
私はその人に見覚えがあった。たしか彼女の名前は水瀬 光さん。翔太さんと同じファッション誌のモデルをやっている人だ。
「えっと…水瀬さんですよね?どうかしましたか?」
私が声を掛けると、水瀬さんは思いもよらなかったことを口にする。
「あなた、翔太くんと付き合ってるの…?」
「…は…?」
思わず「は?」と言ってしまう私。私は慌てて言い直す。
「付き合ってなんかいませんよ!!私はただの翔太さんのマネージャーなので!」
すると水瀬さんはしょんぼりした顔で下を向きながらこう言う。
「ほんと…?だってさっき、翔太くんに頭ぽんぽんされてたじゃん…」
そんな水瀬さんの様子を見た私はあることを察した。
「水瀬さん、もしかして翔太さんのこと好きなんですか…?」
水瀬さんの顔を覗きながら私は尋ねる。
顔を赤くして頷く水瀬さん。
そんな水瀬さんの顔を見て私は『本気で好きなんだろうなぁ』と思った。
私は水瀬さんを安心させるようにこう言った。
「とにかく、私と翔太さんの間には何もないので。安心してください」
すると、急にニコニコしだす水瀬さん。
「じゃあさっ!友達になってくれない!?」
突然の水瀬さんの発言に私は目をぱちくりさせる。
え…友達って私が…?
断る理由もない私はコクンと頷く。
「はい、いいですよ」
すると水瀬さんは嬉しそうにこう言った。
「ほんと!?嬉しいっ!!じゃあさ、メアド交換しよっ!…あ、でもその前に名前教えて?」
「畑中…梅です」
私は水瀬さんのテンションにちょっと引き気味。でも水瀬さんはそんなのお構いなしといったようにこう続ける。
「梅ちゃんかぁ!なんかレトロな感じがして可愛い名前だね!歳はいくつ?」
『レトロって…古臭いって言ってるようなもんだよ…』
私は心の中で突っ込みを入れつつ、水瀬さんの質問に答えた。
「22です…」
「ほんとーっ!?あたしと一緒だ!!梅ちゃんと一緒だなんて嬉しいっ!!」
馴れ馴れしく私にボディタッチをしまくる水瀬さん。モデルみたいないい身体をしてるわけでもないので恥ずかしい。
私はとりあえず「はぁ…」と相づちを打っておいた。
すると突然、水瀬さんはスタジオにあった時計を見てこう言った。
「いっけない!そろそろ撮影の準備に入らなきゃ!!梅ちゃん、あとで絶対メアド交換しようね!!」
パタパタと走り去る水瀬さん。
友達ができたのは嬉しいけど、水瀬さんってなんかすごく変わった人だな…。
私は水瀬さんが走り去ったあとを呆然と見ていた。