キミ専属

 午前8時、私は少し早めに流れ星芸能事務所に出勤した。それもそのはず、翔太さんのスケジュール管理をするためだ。
カタカタとパソコンで文字を打ったり、色々な書類に目を通しているうちに気付けば時計の針は10時を回っていた。するとその時、ちょうどいいタイミングで鳴る私のケータイのバイブ。他の社員達の迷惑にならないよう、急いで廊下に出た私はケータイを開く。翔太さんからのメールだ。
本文を開くとこう書いてある。
「着いたよ。事務所の入口で待ってるから。」
私は「了解です!」と返信を送ると、小走りで置きっぱなしだった自分の荷物を取りにオフィスルームへ行き、それから入口へと向かった。
 入口では笑顔の翔太さんが待っていた。翔太さんは私の姿を見つけると、ますますニコニコと微笑む。それにつられて私もついつい口元が緩む。
「梅ちゃんおはよーっ」
「おはようございます、翔太さん。お待たせしてすみません。…なんか楽しそうですね?」
私が尋ねると翔太さんはこう答える。
「梅ちゃんに会えたのが嬉しくてさ」
「…!!」
翔太さんのその一言で私の顔はみるみるうちにゆでだこ状態に。隠しようがないくらい真っ赤っか。
それを見てケラケラと笑い出す翔太さん。
「かーわいっ!」
『全く…翔太さんって人は…!!』
溢れ出る感情を必死に押し込める私。そして私は話を逸らす。
「今日の撮影、そばで見られるのがとっても嬉しいです!!」
そう、これから私達は撮影に向かうのだ。それも私が定期購読しているファッション誌の撮影だ。
仕事だとは分かっているけど、ワクワクが止まらない私。油断したらにやけてしまいそう。
そんな私の顔をずっと見ていた翔太さんはクスッと笑ってこう言った。
「楽しそうなのは梅ちゃんもじゃない?」
…ゔっ。ばれてた…。
「あ、図星?」
もう翔太さんには何も隠せないと思った私はコクンと小さく頷く。
「俺のかっこいい姿を生で見れるのが嬉しいんでしょ?」
コクン。
「やっぱそうなんだ。じゃあ撮影中は俺のことだけ見ててよ?」
コクン。
顔を真っ赤にしながらただただ頷く私。
すると翔太さんは先程とは全然違う真面目な顔と声でこう言った。
「ほんと可愛い」
…ドキッ
一瞬だけ高鳴る私の胸。
…そう、一瞬だけ。
翔太さんはすぐにいつものニコニコ笑顔の翔太さんに戻るとこう言った。
「じゃあ撮影スタジオにいこっか!」