収録スタジオがある建物から15分ほど走っていくと、名前の通り木漏れ日が差し、やわらかい雰囲気がある「こもれび墓地」に着いた。
全力疾走をした私は息を切らしながら、墓地の中に入っていく。
広々とした墓地をキョロキョロと見回すと、お墓に手を合わせている翔太さんの姿が見えた。
私は肩で息をしながら翔太さんの元へ駆け寄る。
翔太さんは私に気づくと、ニコッと笑ってこう言った。
「梅ちゃん、来てくれたんだ」
そして、続けざまに目の前にあるお墓に向かってこう言った。
「玲子、この子がさっき言った梅ちゃんだよ」
それを聞いて、私は言葉をなくした。
お墓には確かに“入山 玲子”という名前が刻まれている。
絶句する私を見た翔太さんは、悲しい笑顔でこう言った。
「玲子さー、事務所をクビになったあとすぐ交通事故で死んじゃったんだよ。ほんとタイミング悪すぎだよね」
その声は少し震えていた。
何も言わない私に対して、翔太さんはこう続ける。
「最初はさ、梅ちゃんのことを玲子の代わりとして見ていたんだ。それだけは認める。ほんとにごめん。…でもね」
「………」
「少し話してるうちに梅ちゃんと玲子は全然違うってはっきり分かったよ。それと同時に、梅ちゃんを玲子の代わりとして見ていた自分の最低さも分かった」
「………」
「梅ちゃん、今から俺が言うこと、逃げないで聞いてくれる?」
翔太さんからの突然の問いかけに戸惑いつつも、私は小さく頷いた。
すると、翔太さんは「ありがとう」とひとこと言ったあと、さっきの話を続けた。
「さっきさ、玲子に謝ったんだ。玲子が亡くなった後すぐに好きな人ができちゃってごめんねって。…玲子ならきっと許してくれると思う」
「………」
「…俺さ、梅ちゃんが好きだよ。自分のことより他人のことばっか考えてて、馬鹿みたいに優しい梅ちゃんが好き」
「………!!!」
『馬鹿は余計だ』とも思ったけど、そんなことはもうどうでもよかった。
私の目から溢れ出る、大粒の涙。
そんな私を見て、翔太さんは笑いながら泣いていた。
「なんで泣いてんの」
翔太さんが私の涙を指で拭いながら言った。
私は翔太さんの頬を両手で押さえてこう言った。
「翔太さんだって泣いてるじゃないですか」
………
「「ぷっ」」
顔を見合わせて笑う私達。
泣いているのはお互い様だ。
そして今、私達が思っていることはきっと同じ。
「「好きだよ」」
2人同時にそう言うと、私達はまた笑った。
それから私達は引き寄せられるように抱き合い、キスをした。
玲子さんは今、きっと目の前で私達を見てるはず。
『玲子さん、私、玲子さんの分まで翔太さんを幸せにするって約束します』
木漏れ日の中、私は心に誓った。

 この時、私達は収録のことをすっかり忘れてしまっていた(苦笑)。