*
「ない!!ない、ない、ない!!」
「何だ」
「ない!うそうそうそうそ、
ないないないない!」
演技1時間前、マリアは本番用ドレスに着替えを始めようとしていた。
「ドレスがないんです!」
「はぁ?」
着替え室の扉の外によりかかっていた、
着替えの手伝いをマリアに拒まれたロバートがドアを開けて中に入った。
「いやぁあぁぁあ!」
バンッ
「いっつつてぇぇ」
何か硬いものを顔面に投げつけられた。
…ハイヒールだった。
「か、かかか勝手にいきなり入ってこないでぇ!」
下着姿のマリアは、脱いだ普段のドレスで身を隠す。
「黙れ!お前がすべきことはまず謝ることだ!」
ロバートは構わずずかずか中にはいるが、大事な事を思い出し立ち止まった。
「ドレスがないってのはどういうことだ」
「1時間前にはちゃんとここに置いてあったのに…ドレスが」
マリアは涙目になっている。
「どっかにあるはずだ。お前のことだからどうせそこらにぽい捨てしたんだろ」
「違います!ちゃんとここにあったんです!」
マリアは高級そうな装飾が施されたクローゼットを指差して言った。
1時間前、マリアとロバートはリハーサルでこの着替え室を下見し、
本番用のドレスの場所と、
きちんと用意されていることを確認したばかりだった。



