俺のペットはプリンセス〜プリンセス・マリアと王子のキス〜


「お母様!伝達が届きました。」



マリアは封をしっかり元に戻し、
今もらってきたように渡した。



継母は乱暴にマリアから封筒を奪うと、
さっと封を開けた。




「ふん、花嫁選抜…ねぇ、そうよ!
サリーならきっと選ばれるわ。
サリー!」




ドスドスと階段を降りる音がする。




「はいはい、はい!お母様、なんでしょうか!」



サリーが下りてきた。

継母はサリーに向かって言う。

「花嫁選抜だそうよ。
どう?王子様の花嫁になれば、
あなたはお金持ちの生活で、
私も義母として城で生活できるのよ!」




継母は欲望をあらわにした。



「まあ…なんて素敵なんでしょう。
私絶対花嫁に選ばれますわ!」






2人はすっかりその気だ。
マリアはいないものだった。




「その調子!さぁ、早く準備とマナーレッスンをしなくちゃね。マリアはさっさと仕事を終わらせなさい!わかったわね!」


2人はさっさと稽古に向かおうとする。




「待って!お母様、」


2人が立ち止まる。

マリアは手を握りしめて震える声を抑えながら叫んだ。

「私も選抜を受けたいわ!」



マリアの肩は震えている。



それを聞いた継母はきっ、と振り向いて言った。

「なんて口を聞くのです!」

継母はマリアに近づくと、マリアの清掃服の襟を掴みあげた。

「貴方みたいなドブネズミは花嫁に相応しくありません。
おとなしく仕事をなさい!」


マリアの目は涙でいっぱいだったが、
必死にこらえて継母をにらんだ。

「憎たらしい顔ね」

と言うと、マリアを突き放し、
その頬を引っ叩いた。

マリアはそれで足元から崩れ落ちた。




去ろうとする継母を、
マリアは必死の声で呼び止める。

諦めるものか。

ここで一生、殴られ続けて、
我慢していろというのか。



「待ってください!私にだって権利はあります!」

マリアは涙を流して叫んだ。



「お黙り!」

継母は怒鳴りつけた。


「それ以上何か言ったら、屋根裏に閉じ込めるからね!分かったかい!」



マリアは俯いて唇を噛んだ。



「さ、はやくいきましょ。」

サリーの背中を押しながら、継母は去った。


空気が一瞬にして冷え固まり、
マリアは胸に重い鉄球がずっしりと
乗ったような気分になった。







「どうして…なんで私がこんな目に合わなきゃならないのよ…」


マリアはベットに伏せて泣きじゃくった。

悔しい。お父さんがいれば、私はこんなところで掃除ばかりしている召使いにはならなかったのに。

継母が憎い、サリーが憎い。

私の体を痣だらけにした。
顔も赤く、痺れている。

これからもずっと、この家で、
召使いなんだ…
殴られ続けるんだ…



パタパタ、と鳥の羽音がマリアの周りを舞った。


マリアは美しい

マリアはダンスがお上手

マリアの歌声は世界一

マリアは優しい心の持ち主




小鳥やネズミが歌い、泣くマリアを励ました。


「ありがとう…でもごめんなさい。
私はもう歌えない。踊れないわ。
だって私は…一生召使いなの。
奴隷なのよ。」

マリアは瞳から大粒の宝石のような涙を
ほろほろとこぼした。



「あの人はマリアを絶対認めない。
マリアが1番相応しいことを分かっていて、嫉妬してるのさ。だから、あの人に認められようなんて、無茶だよ。」




ネズミのハリーはいじけたように言う。



「じゃあ私どうしたらいいの。」



マリアはベッドに伏せたままだ。





「この家を出ればいいさ。」


ハリーは言った。



「そんな…無理だわ。
きっとすぐ捕まえられて…家事を押し付けられるだけだわ。」



マリアは窓の外を遠く見つめる。

あの城へ行きたい…



「でも、このままじゃ選抜は受けられないよ。」


にゃー、と鳴いたのはソフィーだ。


「ソフィー」


マリアは涙を拭いた。
目が真っ赤に晴れている。



「お悩み?シンデレラ。」

ソフィーは得意げに聞いた。



「私はもう王子と結婚なんてできないの。舞踏会だって、無理なのよ。」


あんな夢のような気持ちに、いつまでも浸っていたい。愛し愛される人と共に、いつまでも踊りたかった。

ただ、幸せになりたかった…


でも、



絶対にかなわない。




「そんなに泣かないでちょうだい。私だってキャットフードが毎日毎日同じで苦しいのよ。キャットフードなんて呼んでいるけどただのどんぐりなんだもの。」



ソフィーはふんっと横を向いた。

「ごめんなさい。私がきちんとご飯を作ってあげられれば良いんだけど。」

マリアは俯いた。


「何言ってるの。あなた自分のご飯もろくに食べないのに。おかげであなたは村一番のスリムボディだけどね。」

マリアはまだベッドに突っ伏して肩を震わせる。

「私…もうこの家を出たいわ。
もう、こんな仕打ちを受けるのは耐えられないの。」



「そうね…でもあなたがいなくなればあの2人は家事をする人がいなくなって困るから、あなたを絶対捕まえようとするわね。」



マリアは絶望した。
もう、自由な生活は自分に訪れないのだ。愛されることも、二度とないのだ。

「だから、もう無駄なの…私はもう逃げられないのよ…」


ソフィーは窓の外を見上げて言った。


「いいえ、一つ案があるわよ。」



ソフィーがマリアの背中に言った。




マリアは黙ったまま涙を流し続けていた。