俺のペットはプリンセス〜プリンセス・マリアと王子のキス〜


「失礼します、お姉様」


マリアの顔は部屋に入ると
真面目くさった優等生のようになる。



「それ、洗濯お願いね。」



姉のサリーは唯一血の繋がった家族だ。しかしマリアはホテルの従業員のように扱われる。


姉に逆らえば継母もマリアを責める。




「はい。」


マリアはうんざりした気分を声には出さない。




「それと私、舞踏会に行くから、その時のドレスも作っておいてくれない?あなた裁縫だけはできるんだから。」


サリーはドレッサーの鏡とにらめっこをしながら言った。



「はい。」




「さっさと出て行って!」



サリーはマリアにドレス用の布切れを
投げる。


マリアの頬に当たる。



「すみません。ただいま。」

マリアは布切れを拾い集めると速やかに部屋を出る。


「本当意地悪な人。」

マリアは聞こえないように小さく、
扉の向こうに言った。


ガンッ!


扉が跳ねる。
扉に何かが投げられた音。

今の呟きが聞かれていたのだ。
サリーが扉に物を投げたようだ。


「…ごめんなさい」

マリアはまた聞こえないくらいの超え出呟いた。


これがマリアの日課で、家族にこき使われるのは当たり前。父の死後、家政婦扱いを受けている。

暴力も受けている。

今日は傷をつけられなかっただけ優しいほうだ。

いつもの姉や母からの暴力で、服に隠れて見えない部分はあざだらけになっている。





「マリア!」

マリアは竦み上がった。


継母が叫ぶ。
継母はマリアの父の死後財産を全て奪い、この家を支配している。



「はい。お母様」


マリアは急いで部屋に入る。


「遅い!」

バンッと継母は机を叩いた。

マリアの肩は震える。



継母ははぁ、と聞こえよがしにため息をつくと次々に注文をする。


「屋敷中の掃除を今日中に。
それと、私のドレスを作りなさい。」



継母の目はいつも引きつっている。
その目は常にマリアを痛めつける。



「かしこまりました。」


マリアは礼をし扉を開けようとする。



継母は追い打ちをかけるように
大声をマリアに浴びせかける。


「終わるまで休憩しないで頂戴ね。
あなたのやることはいつも遅いんだから。」




「はい。」



「さっさとやって。役立たず」


継母はマリアに近づくと、頬を平手打ちした。




「失礼しました。」


マリアは赤くなった頬を隠すようにうつむきながら部屋を出た。



ーバタン


「はぁ。」



マリアは大きなため息をするが、
疲れ切った気持ちを持て余す。






「大丈夫?マリア。」



声をかけたのはネズミだ。



マリアはしゃがんでネズミと話す。


「あら、ネズミさん達。」

ネズミ達は、マリアにとって唯一の救い。

「朝食一緒に食べようと思ってさ。ハリーが待ってるよ。」



あるネズミは早口で言う。


「そうそう。もう準備張り切ってるんだから。」


ネズミの一行はぴょんぴょん飛び跳ねるのをやめない。

「どうして?」



マリアはゆっくりとした口調で
ネズミに尋ねる。、



「モゥ〜鈍いんだから!早く屋根裏に戻りましょう!」



マリアのエプロンの裾をネズミらが引っ張り、階段を登らせる。




「はいはい、あんまり時間取らないでね、私忙しいんだから。」



「ちょっとだけなんだから。はやくはやく!」




「さぁいくよ。ジャーン!」





ネズミがドアを開けると、ピンクのドレスがあった。



マリアはパッと美しい頬を
赤く染める。




「わぁ!なんて素敵なの!こんなに綺麗なのは初めて見たわ。」




「これ、僕らみーんなで作ったのさ。」





「マリアの好きなピンクと、白いレースと、ふわふわのリボン!どう?完璧でしょ!」





「すごい!あぁ、こんなの着てダンスしたら、本当にプリンセスみたいね。」


マリアはドレスを抱きしめて
ゆらゆらと揺れる。




「もう、マリアは僕らのプリンセスだから。」




「ありがとう、こんなことしてくれるのはあなたたちだけね。」


マリアはネズミたちを手のひらに乗せキスをする。



「はぁあ〜」



キスをされたネズミたちは
とろけるように倒れこむ。




「本当だよ。感謝してね!」
ネズミのハリーはふんぞりかえった。



「早速着たら?」


ネズミたちの提案にマリアは
首を振る。



「でも、お掃除もあるし、ドレス作りにソフィーのお風呂に、ダンスの練習も…」





「もう、そんなのあとあと!さぁ、着て!」


ネズミはマリアを急かす。



「もう…ちょっとだけね。」



マリアは長いまつ毛を揺らした。

小鳥がドレスを持ち上げ、


マリアに被せる。


着た瞬間、見惚れるようなため息を
つく美しさに、みんなが静まり返る。


マリアは裾を持ち上げ、一礼した。


「わぁ、すごい!本当にお姫様だね!」


「可愛いわ〜。」


ネズミたちはマリアを褒めた。




小鳥がワルツを歌い出し、
ネズミは踊りだす。





マリアも踊り、架空の王子と
ワルツを踊る。




小鳥は美しく歌う。





信じていれば
夢は叶う
優しさと勇気を忘れず
魔法を信じて
夢を忘れないで愛を感じて
努力もいいけどたまには踊って
辛いことも忘れよう
マリアが歌えば人は驚き讃える
マリアが踊れば王子も踊る
マリアの笑顔に人は虜
森の動物もあつまるよ