授業に向かうため、校舎を歩いた。

中は壁などが茶色になっていて、赤い椅子、 赤い扉など赤のアクセントも多用されている。


お父さんと絵本で見たことのある、
洋館みたいだわ。


シャンデリアが黄色く輝いていてとても綺麗。なんて素敵な学校だろう。

ローズ寮はとても古くて大変だけど、
ここなら楽しく生活できそう。


廊下の幅はとても広い。階段はらせん階段になっている。

ロバートと階段を登りながら、1階ごとに見て回る。

「広いなぁ…」

今までの暮らしが嘘のようで、とてもワクワクする。
こんな世界があったなんて、ここで暮らせるなんて、
夢のようだ。


「1階は職員、2階は1年生、3階は2年生、3階は3年生になってるから間違えないように。
4階は特別教室、5階は図書室…ておい!走るな!」


マリアは図書室と聞くとすぐに階段を
駆け上り、5階を走り回る。


「わぁ、かかんなに本がたくさん…!
こんなにあったら全部読み切れないわ。
えっと…まず何から読もうかな、
これ!?ううん、もっと分厚い…


「おい」


しまった


「アホか!」

がんっ!とげんこつをくらった。


「いたた…ひどい!」

マリアは涙目でロバートを睨む。

「お前はもっと落ち着けないのか?」

はぁ…とため息をつかれる。

「私、こんなに広くて本がたくさんあるところ、初めてで、興奮しちゃったんですよ!
多分ロバートさんみたいに育ちが良くてお金持ちな人はたくさん本があるなんて当たり前なんでしょうけど」


私は本が大好きだった。
お父さんが残した部屋中の本を読み、退屈な生活を楽しいものにしてくれる本が大好きになった。

シンデレラはもちろん、人魚姫、眠り姫、塔の上のラプンツェル。
あらゆるおとぎ話を夢みながら、召使いとして扱われる日々を乗り越えてきた。

そんな本たちがたくさん。

本なんて読ませない。
継母やサリーは私から本を奪い始めた。
でも私は決して渡さなかった。
殴られてでも、本を守った。
誰も知らないお父さんの隠し部屋に、
本を隠していった。

今ではそこが私の屋根裏部屋。たった一つの居場所。

だから、こそこそ本を読まなくていい、こんな場所が欲しかった。

でもお金持ちなら…そんなもの当たり前なんだ。

お金があればきっと…なんでも手に入る。
自由な生活、本物のおとぎ話の中のお姫様みたいに、
豪華な生活が手に入るんだ。

人生って不平等。

「理不尽。怒られるのは私ではなくて、お金持ちのお嬢様じゃないですか。
あなた達にとってはただの本かもしれないけど、私にとっては…
夢なんです。私の生きる希望なんです。それを見て喜ぶことはいけないんですか?」

私は大変なことを言ってしまった。
お嬢様を馬鹿にして、自分がそうではないことを言ってしまった。
どうしよう。


「ちょっと来い」


ロバートはマリアの手首を引っ張った。


ロバートは普通に歩いているつもりだろうが、マリアは走らないとついていけない。

「待ってください、すみませんでした、私、変なこと言っちゃって」


ロバートは前を向いたままだ。

どこに向かっているのか…
追い出されるのだろうか
そうなったらもう終わりだ。人生の終わり。


「お願いします、追い出さないでください」


「…誰が追い出すって言った」

ようやく足が止まると、図書室ではないところに来ていた。

5階の廊下をそのまま歩いてきて、行き止まりになってるから、
図書室の端っこだろうか。
一つ、地味な扉が影に合った。


「お前はお金持ちのお嬢様が怒られるべきって言ったな。
つまりお前はそのお金持ちのお嬢様ではない。
お前は誰なんだ?
何しにここに来た。」