カウンセリングが終わり、
ダイアナは母親と夕食をたべていた。


「お母さん」

「ん?」

母親はグラタンをもりもりと食べている。


いつ、言い出そう…

言っちゃう?まって、心の準備が…

もういい!もういっちゃえ!
「私ね、いじめられてたの」

母親はグラタンを食べる手を止め、スプーンを静かに置いた。

「そう。大変だったわね。」

お母さんは目をつぶって嚙みしめるようにゆっくり喋る。

「打ち明けるの、勇気がいったでしょうね。どれだけ悲しかった?どれだけ苦しかった?どれだけ憎かった?」

ダイアナは首を振る。

「ごめんなさい、今まで黙ってて。
どうしても言えなかったの。
言いたくなかったの。」

「わかるわよ…
あなたってとても真面目でやさしい子だもんね。さぼりなんかするはずないのに、ごめんね、毎朝怒ってごめんね。」


お母さんは静かに涙を流した。

「いいの。私もずっと黙ってたんだから。お母さんが泣いてる時、違うの、さぼりじゃないの、お母さんのせいじゃないの、いじめなのって言いたかった。でも
、言えなかったの…」

ダイアナもほろほろと涙がこぼれた。


2人は立ち上がって抱きしめあい、涙を流した。

ごめんね、とお互いに謝りながら。





二回目のカウンセリング。
予約は3週間前にしておいた。

「こんにちは」

「こんにちは〜、お、元気そうじゃん」

フリンがダイアナの肩をぽんと叩く。

「ありがとうございます」

「お、うまくいったのかな?」

「ばっちりです!」

ダイアナはピースで答えた。

「これで一歩前進だね。
じゃあ次はどうしようか。
教室に行きたい?」

ダイアナは難しい表情をする。
いじめから逃げていたから被害を受けなかっただけで、また教室に行けばいじめは再開されるかもしれない。


「俺も付いて行ってあげようか」

「い、いえ!そんな。お忙しいのに」

「大丈夫、実は新カウンセラーを迎えてるから。これからは2人体制でやってくから、予約も分散してもっと余裕ができる。」

「本当に、大丈夫なんですか?」

「もちろん、任せてよ。
これでも執事ですから」

フリンが胸に手を当てて綺麗な礼をする。

「そっか、フリンさんって執事にもなれるんだ」

「あ、忘れてたでしょ」

「だって話してる時は友達みたいなかんじだから」

「それはそれで良いんじゃない?
友達みたいな執事ってことで」

「じゃあ…私の執事として、宜しくお願いします」

「仮にだけどね」


そんな感じで、裏切られた執事は交換し、フリンを仮執事とした。



フリンがダイアナの後ろについて、
教室の扉の前まできた。

今は朝の会の前で、生徒たちがざわついている。

扉を開ければそこは、いじめがあった何も変わらない世界だ。