カウンセリングが終わり、
ダイアナは母親と夕食をたべていた。
「お母さん」
「ん?」
母親はグラタンをもりもりと食べている。
いつ、言い出そう…
言っちゃう?まって、心の準備が…
もういい!もういっちゃえ!
「私ね、いじめられてたの」
母親はグラタンを食べる手を止め、スプーンを静かに置いた。
「そう。大変だったわね。」
お母さんは目をつぶって嚙みしめるようにゆっくり喋る。
「打ち明けるの、勇気がいったでしょうね。どれだけ悲しかった?どれだけ苦しかった?どれだけ憎かった?」
ダイアナは首を振る。
「ごめんなさい、今まで黙ってて。
どうしても言えなかったの。
言いたくなかったの。」
「わかるわよ…
あなたってとても真面目でやさしい子だもんね。さぼりなんかするはずないのに、ごめんね、毎朝怒ってごめんね。」
お母さんは静かに涙を流した。
「いいの。私もずっと黙ってたんだから。お母さんが泣いてる時、違うの、さぼりじゃないの、お母さんのせいじゃないの、いじめなのって言いたかった。でも
、言えなかったの…」
ダイアナもほろほろと涙がこぼれた。
2人は立ち上がって抱きしめあい、涙を流した。
ごめんね、とお互いに謝りながら。
*
二回目のカウンセリング。
予約は3週間前にしておいた。
「こんにちは」
「こんにちは〜、お、元気そうじゃん」
フリンがダイアナの肩をぽんと叩く。
「ありがとうございます」
「お、うまくいったのかな?」
「ばっちりです!」
ダイアナはピースで答えた。
「これで一歩前進だね。
じゃあ次はどうしようか。
教室に行きたい?」
ダイアナは難しい表情をする。
いじめから逃げていたから被害を受けなかっただけで、また教室に行けばいじめは再開されるかもしれない。
「俺も付いて行ってあげようか」
「い、いえ!そんな。お忙しいのに」
「大丈夫、実は新カウンセラーを迎えてるから。これからは2人体制でやってくから、予約も分散してもっと余裕ができる。」
「本当に、大丈夫なんですか?」
「もちろん、任せてよ。
これでも執事ですから」
フリンが胸に手を当てて綺麗な礼をする。
「そっか、フリンさんって執事にもなれるんだ」
「あ、忘れてたでしょ」
「だって話してる時は友達みたいなかんじだから」
「それはそれで良いんじゃない?
友達みたいな執事ってことで」
「じゃあ…私の執事として、宜しくお願いします」
「仮にだけどね」
そんな感じで、裏切られた執事は交換し、フリンを仮執事とした。
フリンがダイアナの後ろについて、
教室の扉の前まできた。
今は朝の会の前で、生徒たちがざわついている。
扉を開ければそこは、いじめがあった何も変わらない世界だ。