「あれは俺の母親の本だ」

「お母さんの…」

「あぁ、俺は子供の頃から母親の本ばかり読んで育った。自分で買いにいくことはできなかった。…閉じ込められていたからな。でもあの本のおかげで退屈な時間を潰せたし、面白かった。」

ファンタジーが嫌いなわけではなかった。むしろ、子供の頃は大好きだった。


「親に閉じ込められている現実から離れられたし、ばあさんが家から本をかき集めて持ってきてくれたから、本は腐るほど読み漁った。」


「私も同じです。お父さんの本を読み漁って…いくつか取り上げられちゃったけど、屋根裏部屋でたくさんよみました」

マリアの話にうなづいた。


「でも、俺はだんだん大きくなって、
10歳にもなると読む本は無くなって、
孤独だけが残った。親は顔も見にこない。それどころか俺を無かったものにしようとしているかにも感じた。

…だから俺は 逃げ出した。無一文で暮らせる金は無くて、
森に迷いこんだ。」


「そして校長に拾われたんですね。」

「あぁ。金は無かったし、女子校の生徒
としても受け入れて貰えるはずもなかった。でも校長は俺を執事として受け入れてくれた。」


「執事になるなんて、その一瞬で決めたんですか?」

「それしか無かったんだよ。
他に居候させてくれる所もありそうになかった。」

それは当たり前の選択だった。
俺にはそもそも、選択肢など無かった。
多分、両親は俺を餓死かなにかで
消そうと思っていたんだろう。
その歳になると食事はたくさん必要だったのに、サンドイッチ一個あれば良い方だった。