団長が、小さなウインクを送ってくる。この黒を基調として赤と金のラインが入ったアラビアン・ナイトを思わせる格好は、動きやすくて好きだけど。“あの衣装”で自分がどんな風に見えるのかは、確かに気になる。

 それに、あれが完成すれば、サーカスがもっと盛り上がるに違いない。ならば、今の内に完璧にしておいて、次の公演に間に合わせなければ。そして、新たな才能に出会い、このサーカス団を発展させていかなければ。



『……分かったわ。あれ、動きにくいからあんまり好きじゃないんだけど。団長の頼みなら仕方ないわね!』

『ありがとう。頼むぞ、ソニア!おーい、“例のステージ”の準備をしてくれ!』



 私のステージを盛り上げてくれる仲間達が集まってきて、『頑張ろうな!』、『あたし達も着替えてくるわね!』と口々に言う。間もなくみんなの衣装が整い、綱と移動式の階段をセットしただけの即席ステージを作る。本物の完成は少し先で、今はまだ設計中だからだ。

 刑事と警官を思わせる格好をした、十人の団員達。黒のスプリングコートに身を包んでそんな彼らに追われるのが、このステージでの私の役目だ。