los episodios de suyos

『それはまだ分からないわ。ただ、もう少し話をしてみたいとは思った。パパが彼を気に入っている訳も、少しだけ分かったわ。』

『ならば、すぐに嫁になると言えば良かったじゃないか。皐はもっと積極的だったぞ?』

『ママと一緒にしないでくれる?アタシはアタシよ。』



 ツン、とそっぽを向いた彼女。その目が俺を捉え、「アナタ、会ったばかりの女がそういうことを言ってきたら驚くでしょう?父に言ってやってよ」と言う。

 はたと考える。どうすれば、彼女が俺を気にかけるようになるだろう。改めて、その瞳を見やる。半日の間に随分と色々な表情を見てきたが、その度に時を止められたような気分になった。そのことを考えると、彼女の通り名に納得させられる。



「クロノスか……実物見て納得したぜ。仕事、一緒に出来ると良いけどな。」



 そう言って、片手を差し出す。彼女は一瞬躊躇った後、柔らかいその手で俺の手を握り返してくれた。その瞬間、弱いアンバーがふわりと香る。

 この匂いをもっと感じていたい。だが、時間だ。名残惜しさの中で手を離す。スーツを翻し、彼女に暫しの別れを告げた。



「Vaya con Dios.(じゃあな。)」