霧雨が降る、情熱の国・スペインの街。その活気に溢れた場所からは随分と距離を置いた空間に、アタシは居た。

 様々な文字が彫られた鼠色の石がいくつも並ぶ中で、一際小さくて控えめな石の前に腰を下ろす。その隣には華美な花が飾られてスペースを取りすぎている、何処かの大富豪の“永久(とわ)の寝床”があった。



「……イリス、アンタが一番綺麗よ。日本語で言っても分からない、かしら?」



 クスリと微笑うことが出来るようになったのは、アタシを支えてくれた変わり者の恋人や、信頼出来る部下達のお陰だろう。イリスが居なくなったあの日、アタシは酷く取り乱していたから。



『――随分と運が悪い女だな!戦闘経験のないひ弱な甲斐甲斐しいメイドって所か?天下のドン・ローサを守るために飛び出すとは、なかなか勇ましいじゃないか。』

『アンタ……絶対許さない!!』



 所定の場所から取り出した愛銃を向ければ、何の罪もないイリスを撃ったアイツは高らかに笑った。それが酷く癪に障る。体の奥から激情が沸き上がるのが分かった程だ。一睨みすれば踵を返す雑魚共とは違い、ソイツは楽しげにクツクツと喉を鳴らした。