浅く憂鬱な息を吐いたあと、ぞわりと鳥肌が戦いだ。
何もかも憂鬱な夜に。
温かくてしょっぱすぎるお茶漬けを啜りながら、外気に晒された二の腕を器用に摩る。
汁の濃度に咽返りながら、ひたひたと足の裏を床に押し付けた。
「美味しそうですね」
隣から声が聞こえて、ゆっくり声の主の方を向く。
「あ、はい。少し味が濃いですけど」
彼女は、自分と同じようにベランダの薄汚れたサッシに寄り掛かっていた。
ここは203号室だから、きっと彼女は202号室。
「202号室の方ですか?」
ちょっと訊いてみる。
普段だったら会話なんてとっとと終わらせて、自分の愛する恋人のスマホを震わせるところだ・・・。
だけど、もうその必要はない。
「そうです。彼氏と同棲中で」
えへへ、と笑う彼女の表情はゆるゆると崩れていて何とも幸せそうだ。
ここで、はっと我に返りお茶漬けを一気に掻き込む。
やっぱり味は濃すぎて、咽そうになった。
「げほ」
咳ばらいをして、喉の奥のわだかまりを取る。
「そうですか。では、彼氏さんと仲良く頑張ってください」
「はい、ありがとうございます」
ベランダの上での細やかな会話。
彼女は喫煙者なのだろう、右手にマルボロのパッケージがちらちら覗いている。
そろそろ、お暇するべきだ。
「じゃあ、自分は戻ります。さよなら」
「はい」
彼女はニッコリ笑った。
愛らしいその笑顔に、一瞬惑わされそうになる。
結構可愛いな、彼氏が夢中になるのも分かる気がした。
全てを吞むような深呼吸をして、去り際に1つ付け加える。
「あと、その彼氏さんに、ちょっと伝言です。もう別れないか、と伝えておいてください。あなたの愛する彼女からだと言えば、伝わるはずです」
私はニッコリ笑った。
去り際に除いた彼女の唖然とした表情が、何とも滑稽で愉快で。
私は近場で浮気していた愚かな彼氏を嘲笑いながら、柔らかなソファに身を沈めた。