その日、一花は授業後の自習室で頭を抱え、
やみくもに問題集を解いていた。


どうしよう

どうしよう

どうしよう

私ダメダメだ。こんな成績じゃダメなんだ。
どの教科も精一杯だったのに。


自習室の最後の1人になると、プツリと緊張の糸が切れたように、
がっくりと肩を落とした。


(こんなの先生に胸張れない)


(もっと勉強しないと。一年間ってすぐ終わっちゃう。)


その時、ガラッと自習室のドアが開いた。


「おーい、戸じまりの時間だー……ってか、澤口じゃないか。もう遅いから帰りなさい」



「帰れないです。私、もっと勉強しなきゃ……」

「ストーップ」

久方が目の前に”しーっ”と子供にするようなジェスチャーをする。


「もっと勉強したいのはわかったよ。でも今日はここで終わりだ。また明日な。

明日も朝から授業だから、家でちゃんと寝てこいよ」


「せ、せんせ」

「お?何だ?」

「先生、私怖いんです。またダメだったらどうしようって」


「うーん、模試はそう悪くなかったろ?」

「判定がよくなくて、先生が言ったように偏差値は英語以外落ちちゃってて」

「あーあれなー、今の時期に皆を奮起させるために言ったんだが、澤口には逆効果だったんだな」


「ごめんな」

久方は一花の肩をぽんっと軽くたたくと言った。

そして、久方はしゃがんで一花と目を合わせた。

「どれだけ不安を言ってもいいよ。講師はそういう不安を抱えてきた子を何人も見てきてるからね」

「大丈夫だ」


シャーペンを握って離さない一花の手をふわりと握り、ささやくように言った。

「これは今まで勉強に汗をかいてきた手だ。

そしてこれからもっともっと汗をかく手だ」


そう言って、ぎゅっと握って、久方は言った。


「澤口一花を信じてやれ」



思わずぽろぽろと涙が落ちてスカートをぬらした。

握りしめていたシャーペンはいつの間にか机に置かれていた。


「先生、あのね、私ね……」

一花が正気に戻ったのに気付いたのか、通常通りの久方に戻る。

「ほら続きは明日以降ゆっくりきくから、とにかく帰って、ゆっくり寝ること」



―先生、私言いたいんです

―生徒としてこんな風にやさしくされるんじゃなくて

―先生っ……