「ガンバレ~あゆちゃん♪」


父親の優しい声援を受けて、あゆみは一匹の赤い金魚に狙いをつけて網をそっと水に浸した。


「そこだ!いけっ!」


ゆっくりと金魚を追いかけ、タイミングを見計らってすくいにかかる。







…が………







「あっ!」


赤い金魚が水面から上がろうかという刹那、惜しくもあゆみの網は破れてしまった。


「ああ~惜しいっ!
オヤジっ。もう一回だ!」


かわいい娘に何とか金魚をすくわせてやりたい祭は、再度金を払って網をあゆみに手渡す。


しかし、やはり6才の子供に金魚すくいは難しかったのか、合計3回程チャレンジしてみたものの一匹の金魚もすくう事は出来なかった。


「ん~…やっぱり、あゆちゃんにはまだ難しかったかな♪それじゃあ、おじさんに金魚貰って帰ろうか♪」


普通お祭りの金魚すくいといえば、たとえ一匹もすくえなかったとしてもサービスで金魚の一、二匹はお持ち帰り出来るのが暗黙の了解となっている。


祭も、店主が袋に水と金魚を入れてくれるのを当然のように待っていた。





ところが…





「残念でしたね、お父さん。またのお越しをお待ちしております」


「…は?」


「いや、だから…一匹もすくえなくて残念でしたねって」


店主は、祭親子に一匹の金魚も土産に持たせる気は無い様だ。