「ただいまー」
私がそういうと、お兄ちゃんが扉から顔を出した。
「お客さんだぞ。てか濡れすぎ」
お兄ちゃんの一言に私は驚く。
濡れてることを指摘されたのはこの際スルーしておこう。
「お客さん?」
誰だろう。第一、誰か来るとも聞いていないんだけど...
少し扉から覗くと、そこには母と楽しそうに話す彩花がいた。
「え!なんで彩花が?」
「おじゃましてまーす、って、濡れてるね...実は今家に誰もいなくて。鍵がないから外で待ってたら秋紀ママが声かけてくれたんだ」
「そうなんだ...じゃあ夕飯も食べてくよね?」
「そうよ。食べていきなさいよ〜彩花ちゃんなら大歓迎よ。橙夏は部屋に行って着替えなさい?」
「そうですか?じゃあお言葉に甘えて」
「やったぁ!じゃあ夕飯できるまで部屋で話そ!」
「じゃあ俺もー」
「お兄ちゃんは来なくていい!」
「ちぇっ」
ほんとにお兄ちゃんは...
ってそれよりも、話したいことがいっぱいあったんだ!
私は彩花の手を引き、階段を駆け上がった。
バタンっとドアを閉める。
そして、彩花が口を開いた。
「...どうだった?」
きっと放課後のことを言っているんだろう。私が話したいことを、先に聞いてくれた。私が着替えながら答える。
「...告白...されて...それで諦めらんないかもって言われて...緑川くんの噂も本当とか言って!もうわけわかんなくなった!」
「あらら...やっぱり、告白はされたのね。でも諦めらんないかもって...意外に一途。」
「もう!そこじゃない!」
「分かってるってば。それで?なんて返したの?」
「緑川くんから聞くまでは信じないし、本当でも川口くんとは付き合えないって言った」
「そう、まぁはっきり言ったのはいいんじゃない?そういうのって曖昧に答えられると、向こうもこっちもどうすればいいかわからなくなるものだから」
彩花が冷静に話を聞いてくれている中、私は1人熱くなっていた。
そして、私が性格悪いかもってことを話すと、
「あら、恋する少女は全員性格悪くなるわよ。ていうか、そのくらいで性格悪いなんて言わないの」
って言い返されてしまった。
でも、と私も言い返そうとするけど、いい言葉が出てこなかった。
「にしても...短期間ですごく好きになってるね。緑川のこと」
「っ!べ、別に...」
「なーにが別に、よ。緑川のことバカにされたくなかったんでしょ?そんなの、ほんとにハマってるってことじゃない」
「そう...なのかな?」
よくわからないけど、すごく恥ずかしい...
「いいわね〜、青春って感じで」
「そういう彩花はモテるのにどうして彼氏作らないの?」
「んー...いい人がいない...のかしらね。ピンっとくる人が」
「そっかぁ...でもいい人が出来たら、一番に教えてね!」
「もちろん!」
二人で笑いあっていると、ノックもなしにお兄ちゃんが入ってきた。
「ちょ、お兄ちゃん!!ノックしてって言ってるでしょ!」
「あ、悪い悪い。ていうか、もうご飯だぞ。二人とも早く降りてこい」
「相変わらず、デリカシーないね冬樹くんは」
「そうだよね!デリカシーなさすぎるよ!モテないよ、そんなんじゃ!」
「そんな俺を好きって言ってくれる彼女がいるんですけどー?」
「へぇ、彼女いるんだ。意外。」
「彩花、俺のことは...諦めてくれ」
「誰も好きって言ってないけど」
彩花とお兄ちゃんが交わす会話はいつも面白い。
まぁ、お兄ちゃんのくだらない話に彩花が合わせてくれてるだけなんだけどね
階段を下りてリビングに向かうと、今日の夕飯である、ハンバーグが作ってあった。
「彩花ちゃんが好きだって言ってたから作っちゃった」
「おぉー、久しぶりのハンバーグじゃん」
「美味しそうですね!ありがとうございます」
「早く食べよ食べよっ」
お父さんはいつも少し遅くに帰ってくる。
だから、いつもは3人で食べる夕飯も、彩花がいる事でいつも以上に賑やかになった。
「そういえば、彩花ちゃんはもう大学、決めたの?」
「ちょ、お母さん」
うちの家族は考えたくないことをどうしてこうも簡単に聞くのかな
彩花が少し苦笑いし
「行きたいところはあるんですけど...学力の問題で行けるかまだ危ういんですよね」
ははは、と笑う彩花。
彩花の学力で行けないところ...か。
「んなもん、今からどうとでもなんだろ。まだ夏休みもあるし、今からやればいいんじゃね?」
「お兄ちゃん、適当なアドバイスしないでよ」
「いやいや、これでも俺、大学生ですから」
「ありがとう。でも、まぁ行きたいところは他にもあるし...」
何かを言いかけて、私の方をチラッと見た彩花。
私はなぜ見られたのか不思議だった。
それにしても...大学かぁ...
彩花と同じところに行けたら嬉しいんだけど、そこまで私に付き合わせるのも悪いし、何より彩花の行くところに私はついていけない。学力的な問題がある。
「橙夏はどうするの?大学」
「うっ...い、行けるところに行く」
「もう、行けるところって...ちゃんと考えないとダメよ?冬樹みたいになっちゃうんだから」
「母さん?まるで俺があの大学にしか入れなかったみたいな言い方してね?」
「あら、そうじゃない。お母さん焦ったわよ?落ちたらどうしましょうって」
「なんかすげーショックなんだけど」
お母さん...たまーに怖い時があるんだよね...
私たちがご飯を食べ終えた頃、お父さんが帰ってきた。
「ただいまー...あれ?彩花ちゃん。いらっしゃい」
「おじゃましてます。」
「父さんおかえりー」
「おかえりー」
お母さんは今、お皿を洗っているところだから、顔を向けずに声だけを送っていた。
すると、お父さんは手に持っていた袋を机に置いた。
「母さん。さっき帰ってくる途中でケーキ屋に寄ったんだけど、このケーキ、おすすめらしいから買ってきたぞ。彩花ちゃんもケーキ食べていきなさい」
「え?ケーキ?もしかして...朝言ってたケーキ?」
「あぁ。」
朝?
朝はお父さんはやくて、私が起きる前に家を出てしまう。
だから、お父さんとお母さんの会話を朝は目にしない。
というかケーキだ!彩花も少し嬉しそうに笑顔を見せていた。
「じゃあ、お皿とフォーク出すわね」
「あぁ頼む。俺は着替えてくるよ」
お父さんが戻ってくるまで、私たちはテレビを見ていた。
戻ってきてケーキを食べると、すごく美味しかったからすぐに食べきってしまった。
これはダイエットしないとなぁ


