ホームルームが終わって、私が準備をしていると

「な、なぁ。泉。ちょっとだけ話せるか?」


後ろから声がした。
振り返ると、川口くんが少しうつむきつつ私にそう言っていた。


「...今から部活だからさ。ごめんだけど...」

私が断ろうとすると

「5分でいい!」


少し強く、川口くんは言った。
その威圧にか、私は頷いてしまった。

「わ、わかったから。とりあえず、部長に言ってくる...」

「...おう。じゃあまた後で。中庭にきて」

「わかった。」


そう言って、私は教室を飛び出した。

正直行きたくない。またわけわからないことを言われたら...
あぁ!なんで頷いちゃうんだろ...

自分にもイライラしてきたよ...



そのあと、紗由に言ってから中庭に向かった。
紗由は、なんのためらいも無く了承してくれた。でも今回は、少し止めて欲しかったな...

あ、そうだ。ゆっくり行こうかな。

いや、それだと部活に行く時間が無くなるよね...

せめて、もっと早く話が終わってほしい...


そんなことを考えながら中庭に行くと、ベンチに座っている川口くんがいた。
川口くんも私に気づいたようで、立ち上がった。


「悪い。泉。こんな所まできてもらって」

「ううん。大丈夫。話って何?」

だいぶ、今感じ悪いよね...
後々、後悔する羽目になるよこれ...

「いや、昼のこと...謝りたくて。」

「別にもういいよ。でも、これからは噂で判断しないでね」

「...あぁ。でも、俺はアイツ...気に食わない」

「え?気に食わないって...そりゃ、誰だって好き嫌いはあるけど、だからってあんな事言うのは間違ってるよ」

「分かってる。でも、俺は...俺は!泉の事が好きだから!急に出てきて俺の好きな人奪われたくねぇんだよ...」

「...え?」


彩花の言っていたとおり、これって、告白...?

「ごめん...。状況がよくわからないんだけど」

「...こんな事言うのって、恥ずかしいけど。俺は1年生の時から好きだ。泉のこと。」

「...あ、えっと.........ごめんなさい。私は...その、えっと」


こういう時ってなんていえばいいの?
こんな事されたことない...

「分かってるよ。でも、あの噂っていうのは本当なんだ」

「...ごめんだけど、本人から聞くまでは信じれないし、それが本当だとしても、川口くんとは付き合えない...かな。ごめんなさい。」


私がはっきりとそういうと、少しうつむいたあと
顔を上げて笑った。


「...おう。でも、すぐには諦めらんないかも」

「うん...あ!ごめん。もう部活だから。」

「おう。がんばれ」

「ありがとう!」


すぐに後ろを向き走って部室に向かった




────部室に入るともう皆が来ていて始めていた。



「あ、橙夏。終わった?」

私が来たことに真っ先に気づいたのは紗由だった。

「うん!遅れてごめんー!」

「いいよいいよ。それより見て欲しいものがあって」

「見て欲しい...もの?」


何だろう...と少し期待しながら待っていると


「...これって...」

「うん...演劇部に頼まれてた衣装なんだけど...ここが破けちゃって...それに衣装も完成していなくて...どうすればいいかな?」

「んー...あ、じゃ、私が衣装を作るよ!」

「え、でも橙夏まだ自分のドレスもできてないでしょ?」

「大丈夫大丈夫!私のドレスは学校でやれるし、衣装の方は家でやるから」

「でも...」

「大丈夫!私って暇だしね 」


笑いながらそういうと、申し訳なさそうに頭をぺこりと下げて、紗由は
じゃあ悪いけどおねがいするね、といった。暇なのもあるし、暇だからこそ、さっきの事を思い出したくないって言うのもある...
少しでも気を紛らわせるものがあるなら何だってやるよ。

...なんで...川口くんは私を...
あぁ!!考えるのはやめやめ!
今はドレスに集中!夏休みに入るまでに少しくらい進めておかなきゃな。
...ってそう簡単に切り替えられるわけがなく、私は部活時間ギリギリまでやり、やっとみんなに追いつくことが出来た。

「橙夏。今日何かあった?作業が上手くいってなかったみたいだけど...」

「ん?あ、ごめん。何でもないよ!」

「本当?ならいいけど...何かあったら私にでも彩花にでも相談してよね」

「分かってるって〜あ、私鍵当番だから、職員室に持っていくね」

「うん。ありがとう!また明日ね」

「うん!また明日ー!」



少し早歩きに職員室へと向かう。きっと紗由は不自然に思っただろう。
あんなに急に話をそらしたんだから。
でも、今は言いたくないし、そんな川口くんのことで悩んでるなんてバカバカしいと思うから。
川口くんが嫌な人じゃないって言うのはわかってる。でも、今日の出来事で印象は変わってしまった。
もちろん、川口くんだって悪気なんてなかったはずだ...だけど、だけど!
私の気持ちまで否定された気がして、初めてこんなに好きになったのに、嫌だった!!
自分が今どれだけ性格悪いことを考えているかはわかってる。

本当に私...緑川くんのことをバカにされたくない。悪く言われたくないんだ。



職員室に鍵を返した後、急いで外に出た。
...雨か。
傘持ってないよ...
そういえば朝お母さん言ってたのに...はぁ...仕方ない...濡れて帰るか...